はい、あーん！【忍たま】

1　事の発端 ページ2

始まりは、至って普通の日常会話であった。


「A、お願い！一緒に食堂に行ってほしいの！」
「え、なんで」


このお話の中では名前すら出ないような友人が言う。
「今日のランチは私の大好物、でもこの時間帯は忍たまが多く通っているためなんだか一人では行きづらい。」と。
このタイトルの主人公である、Aは、心底興味がなさそうに手元の本を捲っている。

と言うのも、Aは超が付くほどの偏食。食堂なんてこの学園に来てから一度だって足を運んだことがないからだ。
いや、最初も最初、入学したての時に道案内がてら足を運んだことはあるが、理屈屁理屈だ。


「別に一緒に食べなくていいの！隣にいるだけ、隣にいるだけでいいから！」
「……まあいいよ、私もお昼まだだったし。」
「やったあ！……って、Aあなたは相変わらずマイ・おにぎりなのね」


溜息を付いて本を閉じると、Aは何処から取り出したのか、いつも自身が食している「マイ・おにぎり」手に取る。
米と塩オンリーのシンプルなおにぎりだ。

「なんか文句ある」 「いーえ、なーにもー」

そのままAはおにぎりの入った包みを手に、友人と共に食堂へと歩みを進める。
友人は思った。

この偏食と口の悪ささえなければモテモテだろうに、と。
そしてそれを口にすると、Aから帰って来る言葉はいつだって「別にどうでもいい」である。


・


「食いたかったのってそれ？」
「そ！」


食堂に足を運ぶ高嶺の花は珍しく、下級生のくのたまは勿論の事、忍たまたちの視線も総取り。
が、Aはまたしても「別にどうでもいい」感性で、デザートである杏仁豆腐を大切そうに頬張る友人を横目におにぎりを頬張った。

やはり女子といえば甘いものが好きなのだろう、友人は心底嬉しそうに頬を染めて杏仁豆腐を口にしている。

「……ねえ、Aも食べない？一口分けてあげよっか！」
「いらない、杏仁豆腐嫌い」

ぴくん

彼女達二人からしたら、これは至って普通の日常会話なのだろう。
だがしかし、一人の豆腐信者はその言葉に聞き耳を立てた。

「無駄に箸やらレンゲで突くだけ時間の無駄、私はこれでじゅーぶん。」
「もー、Aはいっつもそうなんだ……か……ら」

視界が影に染まる。
影の先を見て言葉を詰まらせている友人に続き、Aもそっと視線を上げると、同じ五年生である忍たまの制服と白い正方形が目に入った。


「無駄、嫌い、聞きづてならないな。」
「は？何お前。」

2　文句は食ってみてから→←⚠︎一応の設定とご注意

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