黒幕 ページ40
「私はうちの生徒がいるって聞いたから来ただけだよ。それにしてもひどいやられようね。お友達が心配していたわよ。何で助けくらい呼ばないのよ」
「口うるせぇ女は嫌ェだ」
「ごまかすなよ」
悪態をつく彼の口元には血がにじんでいる。
……なんだか話と違うな。強いんじゃなかったのか、お前。
「A……なんでここにいやがる。あの女にとっ捕まってたんじゃねェのか」
「はぁ?捕まる?あの女?ちょっと何言ってんのかわかんないんだけど」
本気で理解できない私に、高杉は少し困惑した様子で「あの女だよ」と視線を動かす。
その先をたどれば、私の知っている顔があった。
知っている顔だが、その名前を私は依然として知らない。
「ケーキ女……」
「――――――やっぱり、名前、覚えててくださらなかったのですね」
その女は悲しげに微笑んだ。
彼女は今年に入って同じクラスになった、妙になついてくる、髪を二つの三つ編みでおさげにしていて、家がケーキ屋を経営している、例の女子生徒だった。
高杉と向かい合っている体格の良い生徒の背後に立っていて、その両脇には春雨校生。
その立ち姿はとても人質のものとは思えない。
「貴女、一体ここで何をしているんです」
「……言えません」
「貴女が言えないかどうかなど私の知ったことではありません。言いなさい。何故、彼にこんなことを……」
「言えるわけないじゃない!!」
ケーキ女は泣きそうな声で叫んだ。私からは下を向いている彼女の表情は見えない。
「言ったら、きっと貴女は私に失望するわ……」
「するでしょうね。でも、ここで何も言わなければ私は貴女を嫌悪するわ」
その言葉に肩をびくつかせるケーキ女。
「言えないってことはやましいことがあるのでしょう。ここまで来て隠し通そうとする方が見苦しいとは思わないの」
「それは……」
「……私のことはごちゃごちゃ詮索してくるくせに自分のことになるとだんまりか」
「Aさん……?」
「それとも何か?私からアンタが知りたいこと語んなきゃ自分も言いたくねーってか?」
「いえ、そういうわけでは―――」
違う、と言いかけてケーキ女は頭を振る。
これではいけない、と言うように。
「教えてくださいAさん。貴女、私に――――いえ、私達に一体なにを隠しているんですか」
何を、だなんて、そんな。
「私自身の全てだよ」
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2019年3月17日 16時