なにもない ページ35
「……嫌です」
「また今度、剣治さんと叔父様夫妻と詳しい話をするから、休日の予定は明けておきなさい」
「嫌だ!!」
私の声に、母が不思議そうにこちらを見た。
「どうしたの。大きな声を出して」
「嫌だって言ったんだよ!!」
何で!!
確かに、心の奥底ではこんな家も、私自身も、全部全部クソだって思ってた!思ってきたよ!!それでも!!
「なんでそう思ってたんなら、私にここまでさせたんだよ!!」
私が姉の代わりになれないって思っていたんなら、なんで本来の私の全てを否定して、姉のようになれと言い続けて、まるでクローンを作るように私のことを教育しなおしたりしたの。
男社会の世界で唯一後を継げるかもしれない姉をリハビリすれば治ると言われたケガくらいで見捨てたりしたの。
なんで、なんでなんで。
私達姉妹を、どこまで振り回せば気が済むというの。
「なんでって……」
呆れたと言わんばかりに大きなため息をついて、母は言い放った。
「貴女みたいな出来損ない、あそこまでやってやっと最低限まともな人間なんだから、当然でしょう」
――――――……
「凪も凪よ。いくら才能があったって、肝心のところであんな目に逢って……運も実力のうちと言うでしょう。ここぞというところでうまくいかない女に、家を任せることはできないわ」
「なんで、そんなこと……母さんは、私達に、何を望んでいたの……何を期待していたの」
「そんなもの……」
―――――一つもないわよ。六年前のあの時から。
母がまるで違う人間のように見えた。
気付けば家を飛び出していた。
行く場所なんてなかった。
姉のいる家も飛び出し、かつての相棒である晋助のことも突き放してきた私には。
もうどこにも、居場所なんてなかった。
「私だったらよかったのに」
あの日犠牲になるのが、姉の足ではなく私であればよかったのに。
気付けば、雨が降り始めていた。
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2019年3月17日 16時