吐き出すほどの ページ4
「こちらですわ」
放課後。
クラスメイトの家が経営する甘ったるい匂いのケーキ屋の奥に案内された。
前に来た時もここに通された。おそらく来客用の部屋だろう。
「すぐに持ってこさせますわね」
そう言って彼女は部屋を出て行った。
「――――――だりぃ」
誰もいないのをいい事に少し呟いてみた。
こんな、なんの意味も無いこと。
ここまで尽くしてくれるのに名前すら覚えて無いクラスメイトに対して罪悪感はある。しかし同時に、『持って“来させる”』と平気で人に自分ですればいい事を指図するあの女に嫌気もさす。
こんなこと、私のいる世界では当たり前のことで、思っても意味無いのに。
その数十秒後、クラスメイトは申し訳なさそうに戻ってきた。
「もう少しで来るそうです。お待たせして申し訳ありません……」
「いえ、構いません。時間もありますし」
「本当に、Aさんはお優しいですわね」
「……そんなことは無いですよ」
そんなことない。そんなことないよ。
だって、心の中ではお前のことも軽蔑している。お前どころか、クラスの奴らも、先生も、親も。
自分のことも。
私は私に関わる全ての人間を軽蔑している。
けれど、それを押し殺して笑おう。きっとお前もそうしているだろうから。
みんなそうして生きているだろうから。
やがてケーキが運ばれてきた。とても甘いケーキだった。
甘くて甘くて、思わず吐き出してしまいそうだった。
「そろそろお暇します」
食べ終わって、少し話をしてから私はそう言った。
「え、是非夕食も食べていって下さいな。うちのシェフにAさんの好きなフランス料理を作らせますわ」
いや誰だよんなこと言ったの。
私が好きなのはハンバーグとかそんな感じのファミレスメニューだっつってんだろ。
「……いえ、今日は家族と食べますので」
「そうですか……あぁ、それなら帰り道、途中までご一緒してよろしいですか?」
そういえばこいつ、店と家は違うんだったな。そして方向がうちと同じだ。最悪。
てか、あれ?私この子に家の方向教えたっけ?何で把握してんだ?
なんか怖いな。
正直、一緒に帰るのはかなりめんどい。でも、ここまで知られていると断るわけにもいかないよな。どんな言い訳も苦しくなる。
「えぇ、一緒に帰りましょうか」
今回はお手上げだ。
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2019年3月17日 16時