迎え ページ23
「迎えに来て」
「お前なぁ……」
不満たっぷりの声音。相変わらず生意気だ。
「お嬢様と呼びなさい。姉さんに言いつけるわよ」
「その姉さんのおかげで俺もう疲れてるんだけど」
「何言ってるの。姉さんは私に比べるといい子でしょう。我儘言わないで」
「お前がクソガキすぎんだよ。お前の姉貴はひたすらに人遣いが荒い。あと怖い」
まあ姉は天野のことお気に入りな様子だしね。他の使用人にはあそこまで人遣い荒くないし。
要は構ってほしいのよ。まあ天野に言っちゃうと姉さん不機嫌になっちゃうだろうから言わないけど。
「姉さんのことは良いから。とにかく迎えに来てよ。今の時間は、姉さんは庭園で草いじってるだけでしょう」
「草じゃねーよ花だよ」
「どっちでも良いの。とにかく、手が空いているんでしょう。迎えに来て」
「チッ……クソガキが。姉妹そろって俺をこき使いやがって」
ぶつくさ言いながら通話が切られる。これは迎えに来てくれるやつだ。10年弱も一緒にいればさすがに分かる。
6年前からいろんなことが変わったけど、天野の態度だけは決して変わらないな。姉の専属になってからもこれだもん。感心するよ。
―――なんで。
さっきのことを思い返す。
なんで、晋助の言葉なんて思いだしたんだろう。
あの頃に戻りたいだなんて思ったことは無い。
馬鹿なことをしているだけで笑えたあの頃を美しい思い出だなんて思ったことは無い。今思えばなんて無駄な時間だったんだとさえ思う。懐かしんだことすら無い。
というか、思い出す時間もあまり無かった。
毎日毎日、山のようにやるべきことを課せられて。矯正されて。
私は晋助のことなんて思い出している場合じゃなかった。
やっと姉の真似事ができるようになった頃には、彼との日常について考えることもしなくなった。
それは、わざと考えるのを避けていたのではなく、私の視界から、興味から、その事柄が外れてしまっていたという方が正しい。
それでも、別れ際の晋助の顔を思い出して、やるせない思いに囚われることは、何度かあったけど。
それでも、こんな気持ちになることは無かったのに……!
「つかれてるんだろーな。多分」
「いっちょまえにぶつくさ言ってんじゃねーよ」
聞き覚えのある声が思いの外近くから聞こえて肩が跳ねる。
見ると、何故気づかなかったのか不思議なほど近くに天野が立っていた。
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2019年3月17日 16時