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「まだ寝てていいよ」
「……ぁ、ハルは?」
「僕はたまたま目覚めただけ。水飲もうかと思ったけど、雨降ってるの聞いてお腹いっぱいになったからいいわ。」
「…っふふ、なにそれ」

いそいそと恋人の隣へ舞い戻ると、真夜中に合わせた音量でくすくすと笑う声がする。独りよがりの幸福を感じながら、ふと彼女の頬に手を添えた。身体を強ばらせつつも、高貴な白猫のきみは暗がりの中、心地良さのままに目を細めている。日中スパンコールのように光散りばむその魔法は既に溶けていて、そのまま腕の中に閉じ込めたのは、ちゃんと僕の恋人だった。

「寝れてる?」
「うん」
「ほんとに?」
「大丈夫だよ、隈薄くなったでしょ?」
「いーやまだ信用できないね」

困ったように目尻を下げる彼女の横顔をよく見ていた。その度に何か言いかけて、利口に口を噤んでいた。望まれた適切に従う回数が増える度、その口数は確かに減っていって、彼女に永遠がないことをその時悟ったのだと思う。
人間と言い張るには心細い腕を引き、冷たい首元に顔を埋めた。くすぐったいよ、と言う柔らかな声。落ち着いた脈の音。身体の繊維が緩んで、きみはちゃんと生きている。例え胸に耳を当て、心臓が動いていたとしても、それすらも偽装であるように思えて、それからきみの顔に手をやることが増えた。いちばん手っ取り早いのは唇を重ねて息を感じるあの瞬間だけれど、押し付けるべき欲と仕舞うべき欲の分別はつけているつもりだし。だからこそ、今背中に回った温もりに安堵していたのは、未だそのいっとう大事な薬指を手に入れられていない僕の弱さでもある。

「ハルの隣だとちゃんと寝れるのかも」

その言葉の意義を感じている。幅広く取れば、大義すらある。1人で立てなくなれば良いなんて、そんな片足支えの愛し方を君は知らないだろうから、多分これを伝えるのはもっと先でいい。
思えば、2人がけのソファに腰掛け眺めていた映画途中、彼女が寝落ちるのはいつだって僕の隣だけだった。よっぽど眠りが浅かったのかとブランケットをかけてやる度、その閉じた瞼に問いかけたかった。許された距離にどこまで勘違いしていいものか。でも、もしそれなら、いつだってこの空間は空けておくというのに。きみの為にしか、隣は用意していないのに。


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雨依(プロフ) - 続きが読めるこの日をずっとずっと心待ちにしておりました…!ありがとうございます! (4月30日 20時) (レス) id: 45e86ed873 (このIDを非表示/違反報告)
のいず(プロフ) - また拝読できることを心から嬉しく思います。ありがとうございます! (4月29日 11時) (レス) id: a172c60ad7 (このIDを非表示/違反報告)
ノルン(プロフ) - 2が読めるようになっててめっちゃ嬉しい!!びっくりして2度見かましました!ありがとうございます! (3月21日 0時) (レス) id: 01548bf821 (このIDを非表示/違反報告)
- 久しぶりに来たら2が見れてて大興奮です!!ありがとうございます!!!!(歓喜で枕全力で殴り悶えました(笑)) (2月10日 21時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
miyaana(プロフ) - パスワード解除されてる!!! (2月10日 20時) (レス) id: dd83a370ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しちた | 作成日時:2023年1月27日 1時

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