その光を追いかけていたいの ページ14
た
「お、来た来た」
スマホ片手に壁に寄りかかっていた彼の元にやっと私が辿り着いたのは、配信を締めてから短針が数刻動いた後だった。
そんな急がんでも良かったのに、と髪を耳にかけられた時に感じた指先の冷たさで視界がじんわり熱くなる。途端に増えた瞬きに彼は、気付かないふりをしてくれたけれど。
「待たせちゃってごめんね、折角来てくれたのに…」
「全然。寧ろこの時間にメール返せたから助かった」
「でも…」
「そもそもメールなんか無くてもきみのことは待つしね。ほら、さみぃしはよ帰ろ。」
その言葉を追いかけて、事務所から私達の背中が小さくなった頃。それとなく指が繋がれて、絡め合って、密やかな恋を自覚する。タクシーじゃなくていいの?と問いかけたら、たまには歩こうよ。と笑いかけられて、その言葉だけで簡単に心臓の奥が満たされることを知った。徐々に移りゆく体温と、冬の空気に当てられ続けるコートの矛盾が、今夜の幸福なのだと思う。
「僕来た時めっちゃびっくりしてたね」
「うん……びっくりもしたし、嬉しかった。」
「泣きそうになってなかった?」
「…やっぱり気づいてたの?」
「僕しか分かんなかったと思うけどね。そんなに嬉しかったんやーって思ったよ。」
「嬉しかったよ。…なんか、…こんなに幸せでいいのかな〜ってなっちゃった。」
今日までの貰ってばかりの人生に躊躇いも戸惑いも確かにあって、それでも、この人が私に似合った言い訳をくれるから。私がひとりで立てなくなった時、いつも貴方が隣にいたこと。その永遠を願うのは、あまりに贅沢かな。踏みしめた雪の浅さ、見上げて遠く感じる月明かり、この手の温もり、その全てであの日々を過去にできることが今の私の何よりも光だったから。
過ぎた公園で、子供になり切れない大人達がベンチから夜を眺めていたことを、思い出している。空に手を伸ばすといういつかの夢は日常の中で蒸発して、大切な人と共にいる、という幼い願いが叶えられたこの世界が少し、愛おしく思えた。
た
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雨依(プロフ) - 続きが読めるこの日をずっとずっと心待ちにしておりました…!ありがとうございます! (4月30日 20時) (レス) id: 45e86ed873 (このIDを非表示/違反報告)
のいず(プロフ) - また拝読できることを心から嬉しく思います。ありがとうございます! (4月29日 11時) (レス) id: a172c60ad7 (このIDを非表示/違反報告)
ノルン(プロフ) - 2が読めるようになっててめっちゃ嬉しい!!びっくりして2度見かましました!ありがとうございます! (3月21日 0時) (レス) id: 01548bf821 (このIDを非表示/違反報告)
或 - 久しぶりに来たら2が見れてて大興奮です!!ありがとうございます!!!!(歓喜で枕全力で殴り悶えました(笑)) (2月10日 21時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
miyaana(プロフ) - パスワード解除されてる!!! (2月10日 20時) (レス) id: dd83a370ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しちた | 作成日時:2023年1月27日 1時