9話 ページ10
「ケイトくん、ダメだ、私、本気で寮長のママになりたい」
「はは〜、ウケる」
スマホを弄りながら、しかし私の話に耳を傾けてくれているケイト・ダイヤモンドの口ぶりは軽い。
大食堂では、私のあまり通らない声は喧騒に紛れ、たった数十センチの距離にしか届かない。
「出来るなら育て直したいけど今からでもいい……どうしたら寮長のママになれるんだろ」
「えー、フランちゃんが元々子ども好きなのは知ってたけど、別にリドル君キミと同い年だよ〜？それってリドル君のこと結構馬鹿にしてない？」
「リドルさんが年上でも同じこと思ってた」
「ん〜ま〜、庇護欲そそられるのはちょっとわかるけど……あんま他人の家庭に深入りしないようにした方が良いんじゃね？」
「でも、今まで誰も深入りしなかったからああなっちゃってんじゃん」
「確かにね〜、でも、リドル君ただでさえ今不安定だし、あんまり揺らしてあげない方がいいんじゃない？」
その意見も一理あるが、逆に、もしも──もしも、根本的な治療が適うとしたら、不安定な今しかないとも、思った。
誰も根本的な治療なんか望んじゃいないけれど、それでも。
そこまで考えて、ふと気付いた。
ああ、これは。
「……私、リドルさんのお母さんより、リドルさんのお母さんを上手くやれると思ってるんだ」
「うわ〜、ヤバーい！何がヤバいってさ、リドル君がママのこと嫌いだったらまだ良いよ？彼、自分のママのことすごい好きだからね？フランちゃんがどう頑張ろうとさぁ、二人の間に入ることもできないよ？」
「……どう、なんだろう」
「まさかのチャンスあると思ってる系！？ヤバいヤバいって、やめときなって流石のけーくんも助言〜！
ってかさ、それゴールどこなの！？無くね！？」
ゴールは明確に存在する。私は、彼を呪縛から解き放ちたいだけだ。
彼を母親の呪縛から解き放つ方法は、やはり時間と距離と愛情だろうと、思う。
NRCに居る今だからこそ、それを三つ揃えられれば。
あるいは。
「……やば、マジの顔じゃん」
ケイトくんは私の顔を見て片眉を上げ額に汗を浮かべる。私は唇を尖らせた。
「えー……うーん……っと……けーくん退散！」
彼はそう言って、言葉通り食べ終わった食器のプレートを持って行ってしまった。
──勝算は──ある、と思う。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 127人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
特になし(プロフ) - オタクさん» ありがとうございます🥰💕嬉しい…… (2022年4月8日 18時) (
レス) id: a1f82c8f4e (このIDを非表示/違反報告)
オタク(プロフ) - とっても面白いです！特になしさんの作品はとても奥が深いというか、考えてみればみるほど面白いです！私にはない発想…素晴らしいです。 (2022年4月8日 17時) (レス) id: 108e4cfb5a (このIDを非表示/違反報告)
特になし(プロフ) - もふ田もふ猫。さん» もふ田もふ猫さん前作に引き続き読んでくださってコメントまでしてくださって誠にありがとうございます…💋あまりにも嬉しい…… (2021年9月22日 21時) (レス) @page29 id: a1f82c8f4e (このIDを非表示/違反報告)
もふ田もふ猫。(プロフ) - リドル君も夢主さんも素敵すぎる…！こんなに魅力的で｢魔性｣って感じの夢主を初めて見ました。大好きです！！ (2021年9月22日 20時) (レス) @page36 id: 2107166e13 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 特になしさん» 知ってるアニメは何ですか？ (2021年9月20日 17時) (レス) id: f84c743866 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
