諸伏妹は今日も潜入中２ (ページ29)

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「へぇ…優しかったのね、その先生と娘さん」

どこか柔らかく、どこか淋しげな笑みを浮かべたその姿に心做しか安心感を覚える
私に対する警戒心が溶けた。
明美ちゃんによく似たこの子に警戒されていると胸が痛むから、素直に嬉しさを感じる

「うん、優しかったよ」

「私の両親、私が生まれた時に亡くなったんだけど…その家族みたいな素敵な家族だったら良かったな…」

亡くなった。
その言葉が小学生の女の子から発せられて、体が固まる

「そんな顔しないで頂戴。今は博士たちがいるから寂しくないわ」

「…良かった、哀ちゃんにも支えてくれる人がいるんだね」

「…にも？」

「あ、なんでもない」

ヒロ兄や零のこと。両親や私の記憶のことは話さなかったから。
あくまで宮野さんちの話だけ。
公安警察である以上、身の上話をしているだけでタブーだもんね
温かい気持ちでホットコーヒーが入ったマグを傾けた向こうで、ノック音が響いて、少年が顔を覗かせた

「Aさん大丈夫？」

「この通りピンピンしてる」

「…確かに元気だけど、見た目は包帯だらけの重症人よ。お願いだから大人しくしてて」

後ろから聞こえる呆れた声に苦笑いを返して、少年の元へ向かう
部屋から出る直前に後ろから声がかかった

「あのっ…A、さん…またポアロ遊びに行ってもいい…？」

年相応の恥ずかしげな声に大きな頷きを返して、コナンくんの背中を追った

「Aさん、随分ご機嫌だね？」

「哀ちゃんが初めて名前呼んでくれたからね！」

阿笠邸の門の前でコナンくんといくつか言葉を交わす
公安の人間は人の嘘に聡い
この少年は私になにか隠してる
あの子と話して緩んだ心を一歩歩くごとに引き締めていく

「…コナンくん、何か言いたいことでも？」

「あのさ、Aさんって…ホームズ好き？」