【小説版】悲劇のブラックスワン (ページ19)

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零時、名を刻むものページ19

「……今日も、任務か」
　一人の青年が、月明かりに照らされながら街を歩いていた。
　目指すは、この街を拠点とする暴力団の事務所。彼に割り当てられた依頼は、その暴力団を始末することだ。
　そのビルの前にたどり着くと、立ち止まり、見上げる。
　――窓が開いている。
「無警戒か……舐められたものだな」
　呟き、跳んだ。隣家の塀に飛び乗り、再度跳ぶと、窓に手をかけ、くるりと着地する。
　そして、見回した。
「――だっ、誰だお前は！？」
「オレの正体か……知ってどうする」
「なっ……？」
　彼を囲んでうろたえる周囲を、青年は睥睨し、刀を引き抜いた。

「一応、教えてやる」

　――鐘が鳴る。
　既に青年は、彼らを殺すべき対象として認識していた。
　軽く跳び、数人の首を一度に飛ばす。鮮血があふれ、醜い悲鳴が重なった。
「うわああああああああっ！！」
「黙れ……騒々しい」
　言葉通り、そこにいる者たちを刀を以て黙らせてゆく。
　――と、彼の目が数人を捉えた。
　一瞬で残りの全員を殺すと、彼らに近づく。
「逃げるつもりか？」
「ひっ、いいいいいい――え」
「あぁ……組長とやらに、報告か」
　目を細める。
「案内しろ。大人しく言う事を聞けば考えてやる」
　底冷えのするような声に数人はがくがくと頷き、歩き出す。
　一人がドアを開くと同時に、青年は彼らを一瞬で切り裂いた。
「な……ぜ……」
「考えるとは言ったが、生かしてやるとは一言も言っていないぞ」
「そ……んな……っ」
　事切れた数人には目もくれず、脳天気にも眠っている組長を見下ろす。

「真・画竜点睛の名、心に刻んで死んでゆけ」

　その心臓に刃を突き立てた。

「――任務完了」
　呟き、部屋を出る。
　血に塗れた任務服を普通のグレーのパーカーとジーンズに着替え、再び路上へ。
　殺気を消せば、彼の正体に気付くものはいない。
　――彼もまた、暗殺組織・悲劇のブラックスワンに所属している。
　すなわち、暗殺者だ。
　その名は点画竜真。またの名を、真・画竜点睛。
　無言でメッセージアプリに任務完了の旨を告げ、ぼんやりと考え事をする。
　彼の本業は大学生。明日の授業のことを考える。考古学概論、東洋史概論、英語だったはずだ。
　普段より時間がある。
　今日殺した者を、奉ってもらわなければ。

　彼らは決して虫けらなどではない。
　点画の名のための、尊い犠牲なのだから。