弱虫姫奮闘記―癒しの姫君【弱虫ペダル】【第５期】

２０ ページ20

手嶋先輩が静かに口を開いた。



「襲われたって、何･･･？」

「俺たちが、見つけた時･･･。箱学の男子生徒に姫が組み敷かれて、押さえ込まれてた･･･。一緒に、どこかへ行くか･･･キス･･･するか、選択を迫られて･･･、抵抗して殴られた後で･･･。血だらけで。････泣いてた」



ここにいる全員が、息をしていないかのように静かで、青八木先輩の静かな声だけが聞こえる。



「新開さんが、姫を組み敷いていた、男を蹴って退かした。そこから先は、任せてきたから、分からない･･･けど、まだあの場所にいるなら･･･。校舎裏の、うさぎ小屋の近く」

「怪我は、酷いのか･･･？痛みは、どうだ･･･？」



田所先輩が、椅子に座っている私の前に膝をついて目線を合わせて聞いてくれる。

私はみんなに自分に起きた出来事を聞かれた事が、情けなくて、恥ずかしくて、涙が零れそうになっていたから声を出せなかったけれど、心配してくれている先輩たちをこれ以上苦しめたくなくて、大丈夫だと思ってもらいたくて、情けなく微笑んで首を振った。


田所先輩が私の頭から手の先まで、包帯の巻かれている場所に視線を下げていって、そのまま私の両手を大きな手で包み込んでくれる。

私の腕の包帯から手首までの間に掴まれた跡が残っているのを見つけて、そんなもの、無かったかのように両手で隠してくれた。


東堂さんが静かに食堂から出て行くのを見て、不安が過ぎる。

もしかしたら新開さんを探しに校舎裏へ向かったのかもしれない。


田所先輩の肩に金城先輩が手を置いて、田所先輩は立ち上がると横にずれて、金城先輩が私の前に片膝をついて座ると、田所先輩と同じように優しく両手を包んでくれた。

視線を合わせると、気遣うように小さく微笑んで親指で私の手を撫でてくれる。



「･･･痛かったな。怖かったろう･･･？」

「･･･っ。････ぅ」



もう泣きたくないのに、優しさに負けてしまう･･･。

やっぱり、みんなは優しくて、優しすぎて、男の人にあんな目にあっても、私はみんなのことだけは、怖くないんだ･･･。

２１→←１９

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す