68 ページ23
メッセージを送って一時間が経つくらいの頃、ルドルフが息を切らして病室に来た。
「ルドルフ……まさか走ってきたの？学校から？」
「ああ。……あのメッセージの真意を聞きたい 」
「……送った通り。もう元のように走ることは諦めた方がいいってお医者さんに言われた 」
「それで諦めたのか 」
ルドルフの顔は見れない。でもきっと耳を絞って怖い顔をしている。
「君は諦めないと思っていた。弥生賞の後も皐月賞の後も、今後はずっと私に負けまいと努力してきたじゃないか 」
「それとこれとは別。確かにあたしはあんたに勝ちたいと思ってた。でももう、動かせる足がないとどうにもならない 」
「可能性はあるのだろう？」
「…………あるけど、限りなく低いよ。元通りになるなんて 」
その可能性に賭けて、足自体を失うなんてことになるのも嫌だ。ウマ娘は歩けないと早くにだめになるのに。
「賭けをしよう、ビゼンニシキ 」
頭から布団をかぶり、耳を押さえようとする前にその提案が聞こえた。
「今週のG1、ジャパンカップ。私が一着を獲ったら、足の治療やリハビリに集中してくれ 」
「……無理だよ。だって、日本勢は全然勝ててないじゃん 」
「ああ、かなり私に分の悪い賭けだ。だからこそ、乗る方が得策だと思わないか 」
言われなくてもわかってる。負ければ諦めていい。勝てばまた前みたいに走れるかもしれない。でも海外の強敵になんて勝てるかどうかわからない。
「…………乗った 」
「ありがとう。ならば私もトレーニングを始めてくるよ 」
君のためにも負けられない。
ぼそりと呟いた言葉が、全てこちらの耳に届いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 8人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あきんど | 作成日時：2022年12月12日 21時
