逃げたくない ページ31
「炭治郎!」
地面に倒れる友人を目にしたAは炭治郎の元へ駆け寄ろうとするが、そんな彼女の腕を掴んで引き留める者がいた。
「反応が遅い」
無機質な時透の声が、ぐさりと自分の胸に刺さった気がした。
炭治郎が話している間にAは里の少年の保護に動いていた。
炭治郎が時透の気を引いているうちに、ここから離れるよう助言したのだ。
しかし、里の少年は逃げようとしなかった。
「あの人は俺を助けようとしてくれたのに、逃げたくない。」
恐怖で声を震わせながら、少年は言った。
「わかったよ」
Aがそう答えると、少年は「え」と驚いたような声を漏らした。
―――直後、Aの背後から鈍い音がして、振り向くと地面に倒れる友人の姿があった。
「君、友達が話してる時間があったのに友達も子どもも守れてないよね。」
逃げたくない。
少年の言葉は、確かに自分の意志で発したものだった。
彼の思いを大切にしてあげたいと思った事は間違っていないと思う。
それなのに、反論しようと開いた口からは何の言葉も出てこない。
実力不足なのは自分でも痛いほど分かっていた。
”反応が遅い”
無機質な声が頭の中で何度も繰り返される。
他人から指摘されるのは、自分で想像していた以上に胸が痛んだ。
何も言わないAを時透はじっと見つめている。
その状態を破ったのは、思いがけない第三者だった。
「おい離せ、俺はこいつに用がある。」
Aの腕を思い切り引っ張りながら、ひょっとこの面の男は言った。
突然現れた男に呆然とする時透。
Aは、聞き覚えのある声に目を丸くしながら口を開いた。
「鋼鐵塚さん…?」
時透が手の力を緩めて、Aの体が自由になる。
「時間の無駄。」
Aを一瞥した時透は少年の元に歩み寄り、「鍵」と手短に用件を告げる。
時透に再び話しかけようとしたAを止めたのは、少年だった。
「もういいんです。」
少年は時透に鍵を渡す。
時透は当然のように少年から鍵を受け取ると、その場を後にした。
Aと少年は、その場で膝を抱えて座り込む。
全く同じタイミングで、二人の深いため息が重なった。
「何だ二人して辛気くせぇなぁ」
二人を呆れたように上から眺める鋼鐵塚。
「おい、Aは俺と一緒に来い」
唐突に呼ばれた自分の名前に反応して、Aは顔を上げる。
「あのクソガキよりも強い刀を打ってやる」
そう言った鋼鐵塚の声からは、いつも通りの怒った音がした。
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時