柱と刀鍛冶 ページ30
時透から解放された少年が最初にした事は、助けてくれた炭治郎の体を突き飛ばす事だった。
「誰にも鍵は渡さない。拷問されたって絶対に。”あれ”はもう次で壊れる!」
彼の声は震えていた。先程の事を思い出して、恐怖を感じているのだろう。
「大人だってほとんど耐えられないのに君には無理だよ。度を越えて頭が悪い子みたいだね。」
その少年に対して、時透の返答はあまりにも冷たいものだった。
「壊れるから何?君がそうやってくだらないことをぐだぐだ言っている間に何人死ぬと思っているわけ?」
柱の邪魔をするっていうのはそういうことだよ。
時透の言葉で、Aの脳裏に任務での惨状が浮かんだ。
「柱の時間と君たちの時間は全く価値が違う。少し考えればわかるよね?刀鍛冶は戦えない。人の命を救えない。武器を作るしか能がないから。」
少年に手を伸ばし、「ほら、鍵」と冷たい声で言い放つ。
Aは、その場から動けずにいた。
少し前の自分であれば、少年と時透の間に入って話し合うよう説得していたかもしれない。
しかし、時透の言っていたことは紛れもない事実だった。
―――時間が、足りない。
―――こうしている間に、誰かが鬼に襲われているかもしれない。
柱になってから、そんなことをよく考えるようになったと思う。
もっと強くならなければいけない。もっと多くの人を救わなければいけない。
Aには彼を止めることは出来なかった。
パァン、という乾いた音がして、Aは顔を上げる。
音の方向には、怒った音をさせた炭治郎と、相変わらず無表情を顔に張り付けた時透の姿があった。
「こう…なんかこう…すごく嫌!!何だろう。配慮かなぁ!?配慮が欠けていて残酷です!!」
一つ一つ言葉を選びながら炭治郎は時透に話しかける。
行き場のない感情を表現しようと、彼の手は話している間もせわしなく動き続けていた。
「あなたの言っていることは概ね正しいんだろうけど、刀鍛冶は重要で大事な仕事です。剣士とは別のすごい技術を持った人達だ。だって実際、刀を打ってもらえなかった俺たち何もできないですよね?」
少しずつ炭治郎の言葉が勢いを増していく。
「剣士と刀鍛冶はお互いがお互いを必要としています。戦っているのはどちらも同じです。俺たちはそれぞれの場所で日々戦って」
「悪いけど」
炭治郎の声は、時透の声に遮られる。
「くだらない話に付き合ってる暇無いんだよね」
ドン、という鈍い音がして、炭治郎の意識は暗転する。
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時