時透無一郎 ページ29
里の少年と時透は何やら揉めている様子だった。
”揉めている”といっても喋っているのは面をつけた少年のみで、時透は何の感情も浮かべることなく少年を冷めた瞳で見つめている。
―――盗み聞きは良くない。だけど、揉め事だったら仲裁しないと…
どうするべきか迷う炭治郎。
一方の時透は自然な動作で右手を自分の肩ほどの高さまで上げて、
そのすぐ後、鈍い音が辺りに響いた。
少年の体が地面に倒れる。
時透が手刀によって少年を気絶させたことに気付いた炭治郎は、突然の出来事に息をのんだ。
グイ、と時透の手が少年の喉元を掴んで小さな体を無理矢理起こす。
「やめろ!何してるんだ!!」
その光景を見た炭治郎の体は少年と時透の元へと走り出していた。
少年の首元を掴んでいる手を引きはがそうとする。しかし、
「声がとてもうるさい…誰?」
引きはがそうと力を入れたはずの炭治郎の手が動かない。
炭治郎よりも幾分か細い時透の腕は、炭治郎の力を軽々と上回っていた。
時透は涼しい顔のまま「君が手を離しなよ」と冷たい声で話す。
時透の左手が、炭治郎へと迫る。
しかし、炭治郎の腹に直撃するはずだった時透の拳はその少し前でぴたりと動きを止めた。
「すみません時透さん、私の友達なんです。」
Aは、時透の左手首を自身の右手で掴みながら話しかけた。
一瞬で炭治郎と時透の間に体を割り込ませた少女に、時透の瞳が僅かに困惑の色を帯びる。
「誰だっけ」
「水柱の継子の水守Aと言います。」
「新しく柱になった隊士って君の事?」
「そうですね。最近氷柱になりました。」
Aの言葉を聞いた時透の顔が僅かに曇る。
「なんで弱い奴の味方してるの?君柱なんだよね?」
「すみません、友達なんです。」
時透の若干苛立ちを含んだ声に対し、Aはもう一度先程の言葉を繰り返した。
少しだけピリピリとした雰囲気を纏いながら会話を続ける二人を、炭治郎は眺める。
―――悪意がない。
この時透という少年は、刺々しい言葉を発するものの悪意の匂いが全くしなかった。
二人の会話が途切れたと同時、時透の視線は炭治郎の背負う箱に注がれていた。
「その箱、変な感じがする。鬼の気配かな…何が入ってるの?」
時透の左手が、禰豆子の入っている箱に伸びた。
乾いた音が辺りに響く。
炭治郎の手が、時透の手を払いのける音だった。
「触るな」
怒りを含んだ炭治郎の声が時透へと放たれる。
払いのけられて僅かに痺れた手を、時透は無言で見つめていた。
152人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時