たった一人の味方 ページ4
「お前なんて生まれてこなければよかった。」
妓夫太郎がその言葉を言い切る前に、炭治郎は悲しい音をさせて妓夫太郎に近づいていた。
炭治郎の手のひらが、そっと妓夫太郎の口元に触れる。
「嘘だよ。」
痛いくらいに優しい声だった。
「本当はそんなこと思ってないよ。全部嘘だよ。」
私はその光景から、目を離せずにいた。
「仲良くしよう。この世でたった二人の兄妹なんだから。君たちのしたことは誰も許してくれない。
殺してきたたくさんの人に恨まれ、憎まれて罵倒される。
味方してくれる人なんていない。
だからせめて二人だけは、お互いを罵り合ったらだめだ。」
鬼になれば人を喰う。誰からも許してもらえなくて、恨まれて殺される。
そう思って妹と弟を斬り捨てた。
だけど、恨まれて殺されるはずの二人に優しい音で話しかけてくれる炭治郎に、私はひどく心を打たれた。
もしも炭治郎のような人に斬られたのなら。
妹と弟も幸せだったのかな。
「うわああああん、うるさいんだよぉ!アタシたちに説教するんじゃないわよ!糞ガキが!どっか行け!悔しいよぅ悔しいよぅ、何とかしてよお兄ちゃん!!死にたくないよォ!!」
ぼろぼろと涙を流しながら、堕姫の姿は風に散っていった。
妹が、目から大粒の涙を流しながらボロボロと崩れていく。
俺は、それを何もできずに見つめることしかできなかった。
死にたくないよォ、と言いながら、妹の姿が消える。消えてしまう。
「梅!!」
俺の口は、そんな名前を口にしていた。
そうだ、俺の妹の名前は”梅”だった。”堕姫”じゃねぇ。ひどい名前だ。
いや…梅の方も酷かったな。
梅という名前は、死んだ母親の病気の名前から付けられたんだった。
羅生門河岸という遊郭の最下層で俺たちは生まれた。
子どもは生きているだけで飯代もかかる迷惑な存在だった。
生まれてくる前に何度も殺されそうになり、生まれてからも邪魔でしかなかった俺は何度も親に殺されそうになった。
それでも俺は生き延びた。枯れ枝みたいな弱い体で、必死に生きていた。
醜い声や容貌を嘲られ、汚いと石を投げられた。
この世にある罵詈雑言は俺のために作られたようだった。
美貌が全ての基準価値である遊郭では殊更忌み嫌われた。
怪物のように。
腹が減るので、虫や鼠を食べた。
遊び道具は客が忘れて帰った鎌だった。
俺の中で何かが変わったのは梅が生まれてからだ。
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時