不死川玄弥 ページ25
「Aは柱になったのか、すごいなぁ。」
そう呟く少年は、先程まで話していた二人の女性の事を思い返していた。
氷の呼吸を使う少女は、自分と同じ選別試験で鬼殺隊に入隊した子だ。
彼女には、鬼になった自分の妹を斬って、冨岡さんの継子になったという経緯がある。
遊郭での戦闘。
彼女の動きは、見事と言わざるを得なかった。
一歩間違えれば死に直結する状況で周りの状況をよく見る冷静さ。そして判断力。
妹を鬼にされた同じ境遇でありながら自分より遥かに強い彼女に憧れに似た感情を抱く。
それと同時に、竈門炭治郎は水守Aを心配していた。
炭治郎は鼻がいい。生まれつきだ。
Aの匂いは、いつも澄み切っていて、迷いがない。
自分を含め、親しい人と会う時は優しい匂いになる。冨岡さんといる時には違う匂いになるのだが、それは置いておこう。
とにかく、彼女はいつも迷いがないのだ。
そんな彼女の匂いが、珍しいことにいろいろな感情を纏っていた。
表情には出さないものの、いつもと違う様子のAを炭治郎は心配しているのだ。
―――まぁ、俺よりもAの方がずっと強いんだけどな。
そう思うと同時、はっと我に返り、ぱしりと自分の頬を叩く。
弱気になったら駄目だ。俺ももっと強くならないと。
Aの成長に対抗心を燃やしながら温泉へと足を運ぶ。
こつん、と頭に何かが当たった。
咄嗟に地面に落ちそうになるそれを手で拾い上げる。
前歯だ。
飛んできた方向に目を向けると、少年がいた。
少年の体は傷だらけだった。
温泉に入っていて服を着ていないため、体中の傷が湯気がのぼる温泉の中でもよく見える。
最終選別の藤襲山で、自分と一緒に生き残った少年だ。
蝶屋敷で聞いた彼の名前を呼ぶ。
「不死川玄弥!!」
その声に、傷だらけの少年は振り向き、口を開いた。
「死ね!!」
なんで!?
炭治郎の頭に疑問符が浮かぶ。
それでも、炭治郎はそこで挫けるような男ではなかった。
自身の服を脱ぎ捨て、玄弥の元へ一瞬で距離を詰めた炭治郎は空気を読まずに話しかける。
「久しぶり!元気でやってた!?風柱と苗字一緒だね!」
そんな様子の炭治郎に、玄弥はピキピキとこめかみをひくつかせた後、
「話しかけんじゃねぇ!」
炭治郎を温泉に沈めてから、玄弥はその場を後にした。
「裸の付き合いで仲良くなれると思ったんだけど、人間関係って難しいなぁ」
何がだめだったんだろう。
炭治郎は温泉の中で、不思議そうに首を傾げた。
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時