ただいま ページ4
巨体の鬼の頸を斬ったAは、
巨体の鬼は十体の影が合体してできた鬼だ。その影響か、Aの首からはどんどん血が流れていく。
朦朧とすると同時に、呼吸によって極限まで研ぎ澄まされた集中力は、鬼の頸を斬るべく限界以上の速度を出していた。
同じ氷の呼吸を使って、彼女の首を斬る。
刀が届く寸前。
聞こえたのは、「あーあ」という寂しそうな音だった。
その声を聴いたAは即座に剣を持ち直し、先程とは違う型を放つ。
「氷の呼吸 伍ノ型 明鏡氷結」
刀の角度を変え、ぐるりと半円を描くような形で彼女の頸を斬る。
パキン、と澄んだ氷の音の後。
「え、」と戸惑ったような零余子の声が聞こえた。
斬られた、と思った頸はパキパキと傷口が凍って胴と頭を繋いでいた。
ドサ、と大の字で倒れて刀を手放したAは零余子に弱弱しく微笑みながら、
「ちょっとだけ話そうよ」と、空気が漏れる苦しそうな声で提案した。
明鏡氷結は、氷の呼吸の剣気により傷口を凍らせて鬼の寿命を限界まで伸ばすという技だ。
少しの時間だが、鬼は血鬼術が使えない状態、俗に言う延命状態になる。
「……話す事なんてない」と、零余子はそう言った。
「おじいちゃん、いつも悲しい音がしててさ。一回、なんでそんなに悲しいのって聞いたことがあるんだよね。」
その時のことは、鮮明に覚えている。
「孫を、助けられなかったって、その時に聞いた。おじいちゃんは、あの家でずっと、零余子のこと待ってたんだよ。」
零余子の脳裏に、あの時の記憶が蘇る。
嫉妬していた。
嫉妬した。
私は、おじいちゃんと当たり前に笑いあっている子ども達に嫉妬していたのだ。
今更気づいても遅いよ、と零余子は呟く。
目からはなぜか涙があふれていた。
まだ赤ん坊のころ、お母さんでも、お父さんでもない無骨な手に撫でられたことがあった。
あの優しい手は誰だったんだろうか。
胸が痛い。涙を流すのは鬼になってから初めてだった。
血を流し、苦しそうに息をするAを見つめる。
そんな事を言うためだけにこんな無茶をしたのか。
本当に、二人揃ってどうしようもない。
おじいちゃんと似ているわけだ。
最後にありがとう、と言うとAは満足そうに笑っていた。
お父さんと、お母さんが見える。その横に見えたのはずっと会いたかったおじいちゃんだった。
「ただいま」
零余子は、三人の元へ笑顔で駆け出した。
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弥月(プロフ) - kannaさん» こちらこそありがとうございます!応援してます! (2019年10月13日 9時) (レス) id: 6d130177f0 (このIDを非表示/違反報告)
kanna(プロフ) - 弥月さん» コメントありがとうございます。初めての投稿になるため不安でしたが、そう言っていただけるととても嬉しいです。読んでいただいて、本当にありがとうございます。続き、頑張って書きますね!! (2019年10月13日 7時) (レス) id: 73f13c0ff4 (このIDを非表示/違反報告)
弥月(プロフ) - コメント失礼します。最初から一気に読ませていただきました!言葉では表せない程夢主ちゃんの心の強さや優しさが本当に素敵だなと思いました!言葉おかしかったらすみません…!続き、楽しみにしています!(*´`*) (2019年10月13日 4時) (レス) id: 6d130177f0 (このIDを非表示/違反報告)
kanna(プロフ) - アーロさん» 申し訳ありませんでした。こちらの確認不足です。オリジナルタグ外しましたのでご確認ください。 (2019年10月12日 11時) (レス) id: b959b235dc (このIDを非表示/違反報告)
kanna(プロフ) - かなとさん» 申し訳ございません。こちらの確認不足です。オリジナルタグ外しましたのでご確認ください。 (2019年10月12日 11時) (レス) id: b959b235dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月12日 10時