二人歩いて ページ23
「………えっと、こんばんは。」
「はい。…こんばんは。」
「あの、、よろしく、お願いします。」
「はい…よろしくお願いします…。」
……何だこれ。自分のマネが驚きのあまり、同じ言葉を繰り返す事しかできなくなっているこの光景は一体何だ。
埒があかないので車に乗り、食事に行くつもりだから、と行き先にそこへ繋がる大通りを指定する。走り出す車の座席のそれぞれ端に腰掛けた。助手席の後ろに俺が、運転席の真後ろには藤ヶ谷が。
だって、そこは一番安全な場所だから。
車内は常に無言だった。当事者二人の前で流石に何も聞けない俺の担当と、終始ぼんやりと窓の外を見つめたままの藤ヶ谷。見る人が見ればさぞクールな表情だと認識されるのだろう。当の本人は内心すっげぇあたふたしてるに違いないけど。色づいた小さな耳と、瞬きの多い落ち着かない瞳がそれを物語っている。借りてきた猫だな。俺もそんな藤ヶ谷を一度チラ見して、それ以降は窓の外へと視線を移した。
異様な空気も長く続くことは無く、到着し礼を言って降りた。俺の家からは徒歩圏内にあるため、こっからは完全にフリーだ。通りを抜けて細い路地裏を進む。
「少し歩くぜ。」
「ここ…知らない。」
「ああ。俺も最近見つけたんだ。」
「へぇー…。」
「だから、連れて来るのはお前が初めてだよ。」
「――ぇ、」
半歩程俺の後ろを歩き、きょろきょろと物珍しそうに周りを眺めていた目が止まる。その瞳は俺を見つめていた。
「ほんとう?」
「本当。」
そっか、とぽろりと零し、ふにゃりと口元に笑みが浮かぶ。喜びを滲ませるその表情を、もっと堪能していたい――そう思ったところで、ふいと顔を背けてしまう。
「……先、進んでよ。腹へってんだから。」
「あっ、おう。」
気が付けば足が止まっていた。俺は何と欲望に忠実な奴なのか。照れ隠しに俯かせた顔が見えないのがもどかしい。
「ここだよ。」
「……。」
「まあ、見て呉れはこんなんだけど、味は保証すっから。」
「あ…うん。ここが飲食店とは思ってなかったから、ちょっとびっくりしただけ。」
そう口の端を持ち上げて、「味の心配はしてない。」と告げる表情に滲む信頼が擽ったい。まあ、お前を連れて来るんだ。俺のとっておきに決まってる。そこで藤ヶ谷が何かに気付いて声を上げる。
「ん?」
「変装…。」
「ああ。」
元々直帰する予定だったのだろう、最低限だ。確かに迂闊な店ならばれるだろうが――俺はそのまま戸を引いた。
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久呂之(元:緋絽)(プロフ) - 和來さん» ありがとうございます(*´˘`*) 改稿の可能性もありますがちゃんと完結させたいと思っております。応援の言葉、励みになります(´⊃ω⊂`) (2019年9月29日 2時) (レス) id: 20569f8db5 (このIDを非表示/違反報告)
和來(プロフ) - このお話大好きです!更新される度にウハウハ言って読んでます!更新頑張ってください! (2018年4月22日 21時) (レス) id: 8f5aa5cad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:久呂之 | 作成日時:2018年2月12日 14時