優しい嘘つき 後編 ページ25
そのうち、目的の駅に着いた俺らは改札を出て別れた。帰りの時間も同じぐらいだったら良いね、と連絡先を交換して。なのに、玄樹は。
「ほら、遅れちゃうよ」
その場で俺を見送ってた。それがどうしてだか、分かったのは少し後のことだ。訪問先は、部長との商談を予定してたから正直、俺は名刺交換して提案書類を渡しただけで用済みだった。
「確かに、こっちでは新顔だもんな」
仕方ないか、と駅近くのカフェに入って。たぶんまだ打ち合わせ中だろう玄樹を、待つつもりだったのに。席についてスマホ出したら、店にいるんだ。
「え、なんで」
ちょうど、死角になってるみたいで俺には気付く様子もなく。モバイルを使って作業してる、玄樹。急にアポがキャンセルされたとか?いや、それならさっき教えたアドレスに送ってきてそうなもんだ。
【予定より早く終わった】
試しに、送ってみる。と、すぐに返信がきた。
【僕も、相手先を出たとこ】
嘘じゃん。お前、だいぶ前からいるだろ?だって飲みかけのドリンク、氷だけになってるもん。
【待ち合わせしよっか、駅で。どっちが早いかな】
【道、覚えて帰りたいから。待たせるかもだけど】
きっと、最初からだ。打ち合わせなんか、たぶんなかった。部長に頼まれたのか?いや、それなら。
【分かった、改札で待ってるね】
トレイを片付けて外へ出た玄樹を、ガラス越しに見ながら。心配そうに見送ってたさっきの顔を思い出して、泣きたくなった。周りから浮いてる俺が、立場を悪くしないように。迷惑かけた、みたいな気にさせないように。嘘を、ついてくれたんだって。
だから、ジンとのことで本社から非難された時もすぐ分かった。これは誰かのための、優しい嘘で。
理由があるんだって。信じられたんだ。
「悪い、紫耀!遅なった!」
本社の、玄関前。あの頃の俺と同じように、余裕なく走ってくる廉。後ろから歩いてくる部長が苦笑してるのも、たぶん気付いてない感じ。こういうの玄樹はきっと、お見通しだったんだろうな。
「いいよ、落ち着けっての」
廉も、そのうち気付くんだろう。ホント、困る。無自覚に男を沼に落とすんだからさ。だから俺は、今でも。あの嘘つきが、切なくて、愛しいままだ。
Fin.
37人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒那智(プロフ) - ななみさん» こんばんは、ななみさん♪コメントありがとうございます。遅くなりましたが、なんとか更新できました(・・;)表向き好青年な黒い闇宮司さん大好きなので。単独主演の設定、ちょっと笑ってしまいました。 (2022年2月13日 22時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
ななみ(プロフ) - うん、宮寺さん、マジだからね。姫にはガチのマジだから。ここからハブとマングースがちょいちょい勃発するんですね。φ(・ω・`)掃除のおばちゃんには、ヒートテックを送らなきゃです。 (2022年2月13日 17時) (レス) @page28 id: 70db826a37 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - アリスさん» こんにちは、コメントありがとうございます。プラベが慌ただしいので、ちょっと遅くなりますが必ず書くので気長にお待ち下さいませ。 (2021年12月9日 12時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
アリス(プロフ) - ぜひリクで♡(ӦvӦ。)計画中やったんですね(≧▽≦)楽しみにしてます(*´ω`*) (2021年12月9日 12時) (レス) id: 5f0b5b138a (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - アリスさん» こんにちは、リク(でいいのかな?)ありがとうございます。実は、計画中でした(笑)。岸くんからは2人がどう見えてるのかな?的な話になりそうです。近いうち(いつや)アップする予定です。 (2021年11月23日 12時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:黒那智 | 作成日時:2021年5月30日 11時