月輪エンゲージ�� ページ46
駆け寄る背後で、骸と化した先代王の倒れる音がする。だが、レンの意識はそちらには向かなかった。広間に立ちこめていた闇は薄くなり王宮も平常の空間に戻ってゆく。けれど。
「……お前……」
玄樹の傍らに控えていた老臣は頭を垂れた。
「お叱りはごもっともかと存じますが」
物理的な傷ではない。とは言え、防ぐ術がない訳ではなかった。それだけの能力を持ち合せているにも関わらず、という叱責である。
「先代の魂は、生半可ではありますまい。依代もないまま、疲弊された御身で封じるには無理があるかと」
「分かっとるわ！」
それでも、巻き込みたくはなかった。現に、受け止めた剣の柄を握ったまま玄樹は微動だにしない。相当な負担だったと察せられるのだ。
「では、御身をすり減らすおつもりでしたか？それ即ち、終わりを早めることになりますが。遺される側のお気持ちは、レン様が一番ご存知なのでは？それを玄樹様に強いるのですか？」
「それは……」
言葉に詰まったレンの耳を細い声が打った。
「……だ、いじょうぶ……だ、から……」
ゆっくりと、伏せていた瞳にも光が戻って。
ただ、その姿がレンには二重に見えた。重なるそれが同じであって同じでない、と気付けたのは今も首筋に残る咬み傷が、ホクロに転化していたからである。つまり、この残像はどこかで別の場所の。過去か、未来かも知れぬ場所で。
何かしらの形で生きている、玄樹なのだと。
「これ、を」
そうして目の前にいる玄樹が差し出したのは剣ではなく小刀だった。先代の気配はするが、尊大さはない。では、魂は何処へ消えたのか。
「ここに、いるよ」
思念と同じ言葉を玄樹は口にした。その手は小刀を持たない他方のそれを下腹部へと導く。
「お気付きではございませんでしたか？」
血溜まりと、闇。生来持つ相反する力ゆえ、制御に長けた老臣は見抜いていた。昨今そこに新たな血流が生じたことを。そして、器がまだ虚ろなままであることを。ならば。
「魂が眠るのに、何の不都合がありましょう」
「せやから、か」
握り締める小刀は、記憶だ。魔王の資質は、現世を離れ無垢な魂としていずれ甦る。一方、培われた想いはただ、還りたい場所を求めた。
それがどこであるかなど、考えるまでもない。
恐らくは、その全てを包む心こそが。
闇の本質、腕(かいな)であったのだろうか。
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黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんにちは、いつもコメントありがとうございます♪こちらのページに載せられる話数があと少しなので、最終話＋後日ネタか裏設定、後書きで締めようと思っています。最後までお楽しみ頂けるように頑張ります(^-^) (2021年3月16日 12時) (
レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます！次回最終回さみしい&楽しみに待たせていただきます。 (2021年3月16日 1時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんばんは★コメントありがとうございます♪いよいよ佳境でございます。伏線を回収しきれるか、頑張れ自分(笑)状態です。 (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます。引き込まれます！ (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» はじめまして、こんばんは★コメントありがとうございます。訪問＆コメント大歓迎です♪励みになります。 (2021年1月18日 0時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒那智 | 作成日時：2019年5月1日 12時
