月輪エンゲージ�� ページ41
ほどなく、式は始まった。進行するのは先代の側近２人。玉座は未だ無人である。これは、ショウの時もレンの時も同じだった。形式的な手順を経た後、現れた先代王の御前で杯を掲げ飲み干す。そして、祝いの言葉で締め括られるのだが今回ばかりはそれで終わらないと誰もが察していた。だが。
「……何やら、右に圧を感じますな」
「ホンマや。良う飽きんな、感服するわ」
小声のやり取りは、カイトの両脇に対してである。彼らは、式の終盤に玉座と権力が譲られると信じて疑っていない。それは半分正しく、半分間違っているのだが事実を知れば激怒するだろう。レンが血の杯を受けなかった、本当の意味など考えたこともないのだろうから。
「……いつも、なんですか」
そっと尋ねた玄樹に、老臣は頷く。
「しかしながら、あれも見納めにございます」
それは、と思った刹那。広間の空気が不意に重くなった。無人だったはずの玉座に、輪郭が現れたからである。ややあって人の形になり、側近の一人が進み出て杯を差し出す頃には王の血滴が落ちる音しか聞こえなくなっていた。
「カイトよ」
凛、と通る声で先代王は言った。続いて杯は他方の側近へと手渡され、本人の眼前に来る。
「幼き殻を破り、目覚めよ……成すべきを成せ」
「ここに注がれし覚悟を身の内に取り込みて」
応じたカイトの手に杯が渡り、両脇の２人は嚥下する喉元を恍惚と見つめている。恐らく、一族の再興をそこに夢見たのだろう。
「今ここに、新しき魔王が誕生した。この善き日を迎えるにあたり、我が血を引く者達にこそ伝えておかねばならぬ話があるが……その前に」
一方に金、他方に血溜まりを配していながらも優しげな先代の瞳が玄樹を捉えた。
「話は聞いておる。異界より迎えた奥だとな」
「玄樹と申します。お初にお目にかかります」
「ふむ、懐かしいことだ」
「此度の儀はカイトの為でございましょう！」
レンの母親を思い出しているらしい先代に、苛立ちを隠す素振りもない甲高い声が飛んだ。
「であれば、王の血も頂かず魔王とうそぶいている者など！まして怪しげな婬魔など、本来は足を踏み入れてはならぬはずですのに！早う、その玉座と城を魔界すべてを、正統な後継者にお譲りになると宣言下さりませ！」
と、先代はゆっくり目蓋を閉じた。そして。
「黙れ」
その一言で、空気を圧した。
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黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんにちは、いつもコメントありがとうございます♪こちらのページに載せられる話数があと少しなので、最終話＋後日ネタか裏設定、後書きで締めようと思っています。最後までお楽しみ頂けるように頑張ります(^-^) (2021年3月16日 12時) (
レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます！次回最終回さみしい&楽しみに待たせていただきます。 (2021年3月16日 1時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんばんは★コメントありがとうございます♪いよいよ佳境でございます。伏線を回収しきれるか、頑張れ自分(笑)状態です。 (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます。引き込まれます！ (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» はじめまして、こんばんは★コメントありがとうございます。訪問＆コメント大歓迎です♪励みになります。 (2021年1月18日 0時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒那智 | 作成日時：2019年5月1日 12時
