Ⅲ.秘密の７人目【東海オンエア】 (ページ32)

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これはきっと夕暮れのせいページ32

「あっ」

実家での手伝いを終えて、プラプラと歩く。

別に仕事するのは嫌いじゃないけど、いやー久しぶりだから疲れたなぁ。

お団子にしてた髪の毛をほぐす。いつの間にか夕日はすっかり暮れてしまっていて、早く帰らないと、とマンションへと足を早めた。

「？あ！Aちゃん？」

そんな時、よく見知った女性が視界に入った。声をかけなければよかった、なんて後悔はない。だけど心の準備は必要だっただろう。

それにしても今日は懐かしい人によく会う。

「久しぶりやねぇ。
でら綺麗になって、Aちゃん、元気そうでよかった。」

ニッコリと目尻にシワを湛えて彼女は笑う。なにか口にしようと試みるも、一拍おくれてつい出た。

「は、はい。憲子さんも。
お元気そうで何よりです。帰国してからお会いにも行かずにすいません。」

頭を下げるとハラリと、黒髪が頬を擦る。
まるで、元カレの母親に会った雰囲気だが、その表現は間違っているわけではないのが少しだけ笑えた。

「そんなん、家も離れちゃったし、会いにも来にくいじゃんねぇ。

良いんよ、YouTubeで見れるからね。」

元気そうでよかった、と幼馴染にそっくりな顔をして笑うものだから。
昔よりも随分年をとった彼女がずっとずっと柔らかくなっているのだから。

きっとそれも、お嫁さんのおかげなんじゃないだろうか、なんて。

走馬灯のように小さい頃の思い出が蘇ってくる。
色々あったけど、私は憲子さんには感謝しているのだ。裕輔を生んでくれたのは紛いもない彼女なのだから。

「ありがとうございますっ、憲子さん。」

「やぁねぇ、また今度会いに来てね。一人で来にくかったら、皆で会いに来てねぇ。」

変わってしまった関係だけど、彼女と培った記憶はいつまでもいつまでも残り続けるだろう。

私の忘れられない大切な思い出として。

それがとてつもなく寂しくって、目頭が熱くなるけれど、これはきっと、夕暮れのせい。