月の影取る猿【めぐまい】 (ページ5)

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医務室のベッドの上で横になり、意味もなく天井を眺めること早五分。

診察に当たった庵先生は、暑さとハードトレーニングによる疲労だろうと判断し、しばらく安静にすることを命じた。気分が良くなったら戻って、とも言っていた。

だが俺はその戻るタイミングとやらを見失っている。走り込みは終わっただろうから時間はバッチリなのだが、俺は体を動かす気にはなれなかった。

目を瞑れば、一斉にツララが襲ってきて、俺の肉を執拗に突き刺してくる。それらは俺がいくら血を流しても気にせず、むしろ誘発剤と受け取って数を倍増させる。

そんな夢を見てしまった後に彼女の双眼を恐れるのはごく普通のことではないか。

できることなら、ずっとずっと、ここに居たい。時間の許す限りひっそりと懺悔をしたい。

しかし、それを許してくれる人は居ない。

あまり遅くなると虎杖か釘崎がやってくるだろう。まだ体調不良が続いていると思われたら面倒だ。俺はベッドに張り付く体を無理に引き剥がして、上半身だけを起こした。

「あら、もういいの？」

そう言ったのは真依さんだった。

俺は驚いて何も言えずにいた。突然の登場にも動揺したが、それよりももっと驚愕することがあったのだ。真依さんは明らかな冷気、言い換えれば敵意を捨てていた。俺がやらかした、さっきの無礼な振る舞いをすっかり忘れているようにも見える。

俺はあれほど悩んでいたのに、実際はどうでもよかったのか。疑問より苛立ちが勝る。

「……回復しました。今から戻ります」

突き放すように、可能な範囲で冷淡に言った。

俺にとって、この口調は一種の反発であった。歯牙にもかけない真依さんの態度を真似て、所謂八つ当たりをしたのだ。

幼稚だと笑うだろう。くだらないと呆れるだろう。俺自身も言った後にそう感じた。この行いが、真依さんには何も効力を持たないことなど、熟考せずとも分かることなのに。