花火が刺す【五条悟】 (ページ10)

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一歩先へゆくページ10

彼女は先程の負傷をさして気にしていなさそうにしている。焼けるような痛みに襲われているはずなのに顔色一つ変えやしない。それどころか、

「回復したら教えて。補助監督に連絡入れてくる」

と、平然とした態度で携帯電話を弄り始めるから、五条は完全にブチ切れてしまった。

「俺だったらそんなことにはならなかった！」

「でも、その目を隠す物がないとしんどいでしょ？」

元はと言えば彼女の判断が誤ったための負傷である。どうしてここまで罪悪感を覚えなければならないのか、五条には全く理解ができなかった。

「いつの話してんだよ。あれは一年も前だ。今は違う。普段の俺を見てたら分かるだろ……！？」

彼女は逆上する五条を見て、意味が分からないといった表情をする。そして首を傾げながら、

「普段の五条くん、知らない」

と言ってのけた。

五条はショックで胸がいっぱいになった。心臓が一際熱く、重く、強く、脈を打つ。

俺の方が強い。俺には無下限呪術と六眼がある。それに加えて特級術師だ。俺は完全体で、これからの呪術界を担うヒーローだ。全員が俺を期待してる、注目してる。俺に適う奴なんかいない。どんな任務でも俺は失敗しない。俺は世界で一番強いから、そんなの当然だ。アイツだけがおかしいんだ。

心の中で必死に自分を慰めても、先程の痛みは消えない。それどころか、虚しくなる一方であった。

補助監督に連絡を入れている彼女の後ろ姿を見て、黒い感情が湧く。

なんでアイツだけ。

五条は自分が特別だと信じて疑わなかった。だのに彼女が現れた途端、それがあっという間に崩れ去った。なぜなら彼女も同じく"特別"だからである。それを知るのは五条が人類初であり、五条の人生でも初の出来事であった。

自分に目を向けない彼女が、自分の一歩先を行く彼女が許せなかった。憎かった。ムカつく、悔しい、納得いかない、理解できない。

五条は現実から目を背けるように、彼女の背中から目線を逸らした。

空は快晴である。