十三通 ページ13
ベランダのような喫煙所のような。
パーティの時には酔いを覚ましたい者が。
喫煙者はタバコを吸いに。
気分転換をしたい者が。
様々な人間が集う場所で、一人の男が、ここにやって来た女を見て言った。
ut『あれ、ニコルちゃん。どしたん。』
相変わらず紺色のスーツにはシワが寄っていて、口には煙草が銜えられている。
ただ、その眼差しはいつもとは違い、真剣だった。
『鬱、さま。……いえ、なにもありませんが。鬱様こそどうなさいました?』
ニコルは一瞬目を伏せたが、直ぐにいつもの様に真っ直ぐ前を向き、ニコリと笑って返す。
ut『まーたそんな嘘ついて。いつもと態度違いすぎやろ。下向いてるし、なんかいつもの凛々しさが無いし、ニコルちゃんがここに来ること自体珍しいし、そもそも俺は煙草吸いに来てるし。なんかあったんなら言ってみぃや。』
いつもとは違う微笑みを浮かべ、自身の隣を指差す鬱。
ut『……で、どしたん?』
煙草を灰皿に押しつけ、火を消した鬱はニコルの瞳を見つめる。
『……フラれました。』
ut『はっ!?』
ニコルの言葉に、素っ頓狂な声を出す鬱。
ut『え、ニコルちゃん好きな人居ってん!?誰!?』
『総統閣下です。』
鬱が再び素っ頓狂な声を出す。
暫くして落ち着いた鬱は優しくニコルの背中に触れる。
ut『そっか。フラれたんか。……泣いてええんやで。ずっと強がりなニコルちゃんじゃなくてもええんやで。』
こういう時に欲しい言葉をサラッと言えてしまう。
これが鬱がモテる理由か、とニコルは心の隅で考えた。
ニコルはフラれたくらいで泣いてやるものか、と唇を噛んで涙を堪えていたが、暫くして瞳から涙が溢れた。
『は、い。』
溢れる滴は一滴、二滴と増えていき、ニコルは嗚咽を洩らしながら涙を流す。
頬に白い筋を浮かべるニコルを見て、鬱はこの気持ちには蓋をしておこう、とニコルの背中を摩りながら思うのだった。
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