一通 ページ1
空に向かって高く積まれた石垣。
石垣の頂点には赤い大きな旗が風で靡いていた。
その綺麗に磨かれた石、門に立っている立派な鎧をつけた兵士から、この国の経済力・軍事力は大方察せられるだろう。
門に立っている二人の門番に、一人の飛脚が近づいた。手には小さな封筒を持っている。
『α国の王女から、我々国のグルッペン総統閣下へお手紙です。』
そう言って微笑む飛脚。
門番の一人が訝しげな顔をして小さな白い封筒を受け取る。
飛脚は封筒が手から離れると、さっと踵を返し立ち去って行った。
二人の門番は目と目を合わせ、一人が城の方へと駆けて行った。
一歩踏み出す度に金属の擦れる音が響く。
白い小さな封筒は門番の兵士から一人のメイドへと渡った。
黒を基調とした落ち着いたメイド服を着た一人の女。艶のある栗色の髪は高い位置で一つに結ばれ、整った顔には薄く化粧が乗っている。
それは紛れもなく我々国のメイド長、二コルであった。
コツ、コツというヒールの音が我々城の最上階、幹部の部屋や総統室が並ぶ廊下に響く。
白く細い手がチョコレート色の扉を叩く。
『総統閣下。二コルです。』
鈴の転がるような、それでいて芯のある声が二コルの口から出る。
『入ってくれ。』
ギィ、と音をたてて扉が開く。
扉と同じ色の机の上に積まれた書類。
金と赤の椅子に座る黒い軍服を着た金髪の男。
その男が右手に持っているものを見て、二コルは深く溜息を吐いた。
『またおやつ食べてるんですか、グルッペンさん。』
呆れたように額に手を当てる二コル。
『いや、これは効率を考えてだな……』
言い訳をしながらも、絶対にフォークを置かないグルッペン。
二コルはもう一度大きな溜息を吐き、グルッペンに近づいた。
『その言い訳は何度も聞いてます。はい、α国からお手紙です。』
ニコルがスッと白い封筒を差し出した。
その小さな封筒を見てグルッペンは眉を顰める。
『は？α国とはついこの間親睦を深めるためのパーティをしたばかりじゃないか。宣戦布告の意図が読めん。』
白い封筒を摘み、眺めるグルッペン。
そんなグルッペンを見て、二コルは軽く頭を下げた。
『失礼しました。先程の言い方では語弊があります。α国の王女からです。』
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