149episode ことばことば ページ7
Aside
ガラッと扉の開く音がして見ると、そこには見慣れた人が立っていた。
「……！ 迅さん、」
思わず声を上げると、迅さんはいつもの笑みで、
「よーA、怪我はどう？」
と言いながら、後手に扉を閉めて私のいるベッドの方に来た。ベッドはリクライニングできるものなので、私は上体を半分起こしている。
「まだちょっと痛みます、あと何日かは入院らしいです」
「そうかー、お大事に」と迅さんは言って、それから手に持っていたスーパーの袋を軽く上げた。
「これレイジさんがマドレーヌ焼いたんだって。宇佐美が絶賛しててさ〜。そんでこれはおれからね」
迅さんが綺麗にラッピングされたマドレーヌと、それからゼリーとぼんち揚げを袋から出してみせた。
「すみません、ありがとうございます」
「どういたしまして〜ここ置いとくね」
迅さんはそう言って袋にしまったそれらを、見舞いの品が置いてある棚に置いた。
「そういや今日太刀川さんと病院抜け出したんだって？ 忍田さんが疲れた顔で言ってたよ」
迅さんのその言葉に思わず言葉を詰まらせて、本部長のストレス促進してしまったかとまた謝りに行こうと思った。
迅さんがそんな私を見て笑って、それから私の横になるベッドに軽く腰掛けた。
ギシ、とスプリング音がした。その微妙に近い距離感に、少しだけ心臓が鼓動を大きくする。
「……お前、今回もおれのこと恨んだ？」
ぽつりとそんな声がして、迅さんを見るけど、私からは微妙にその横顔も見えない。
「…恨んでないです」
私が慎重にそう言うと、迅さんは軽く天井を仰いで、「そっか」と笑った。
迅さんはそれから口を閉じて、窓の外の暗い雨を見つめていた。それは今にも壊れてしまいそうなくらい脆さを感じて、私は口を開くのが怖い。
「……迅、さんの、せいじゃないです」
それでも言った言葉は、震えていた。
迅さんは一拍置いて、それからあっははと笑った。
「いっそおれのせいにしてくれたほうが、楽なんだけどな」
私は目を見開いて、なんだかこっちが泣きそうになった。それは確かに笑っていた。でも、きっと、これは弱音だ。
「……迅さん、」
私は顔をしかめて、白いシーツをぎっと握った。
「……すきです」
窓の外の雨の音が聞こえる。
盛大に震えて上ずったその言葉。迅さんには、視えていたんだろうか。
しばらくの沈黙の後、迅さんがふーっと息を吐いた。
150episode 迅悠一�あ�←148episode 心配
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ゆう - とっても面白いです！！更新頑張ってください！！ (2023年1月29日 15時) (
レス) @page17 id: 619c9e8827 (このIDを非表示/違反報告)
鈴音 - すごい素敵です…更新ずーっと待ちます！ (2022年3月6日 22時) (レス) @page17 id: 57ecee7250 (このIDを非表示/違反報告)
誕生日肉 - 米屋への対応と三輪とのこれからが気になります… (2021年5月31日 13時) (レス) id: 43784786f9 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - 良すぎて言葉になりません。 更新楽しみにしています。 応援してます。 (2019年12月5日 20時) (レス) id: 52a662140b (このIDを非表示/違反報告)
柚さん - 面白くって最初から一気読みしてしまいました！続きまってます！無理なさらずがんばってください！！ (2018年11月26日 23時) (レス) id: d92082f045 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：瀬野
| 作成日時：2015年7月19日 21時
