構いたくなる変な奴

実力 ページ8

中也side

彼奴が強いなんて話は信じていなかった。



別に優しい訳でもない。
只、ふとした時に見せる顔。


其れは、其れだけは暴力とは縁遠い表情だったから。

糞太宰の様に最低な手段で、残虐な作戦を立てると言うのに



気付いたら壊れそうな表情を瞬き一つ以下の時間だけ…彼奴は見せる。






そんなのを見ていると、本当に、此処がポートマフィアのビルなんて事も信じられなくなってくる。




『…、一寸？人の話聞いてる？』


ついさっきまであんな悲しみに満ちた顔をしていた癖に。


「…悪りぃ、なんだった？」

素直に一回でちゃんと謝れば大した怒られない。
機嫌が悪いと別だが。

太宰でさえ、此奴の不機嫌には会いたくないらしい。



まぁそんな気分屋の此奴。

……
「そういや、手前名前は？」


『はぁ？君私の話聞く気ある？』
めっちゃ怒られた。




　|



A…A、か
なんか彼奴らしいというか、しっくり来る。



何故か2人の殲滅任務。

何だ？此奴…何もする気ねェとか無いよな？



流石に俺だって1人じゃキツいモンがあるぜ？


『…中原君、君は帰って良いよ。』

隣でそう言うか否や俺を置いてさっさと車から降りるA


……は⁉︎
「ちょっ…ッ！一寸待てや‼︎」


急いで車から降りて森の中を歩く背中を追う。



先に森の中を歩いている筈で、
俺が歩くのと同じ様に道なき道を行っている筈なのに



全く音がしない。

狐にでもつままれたんじゃないかと思うほどの無音。




先にも後にも道はなく、音のない俺だけの世界に迷い込んだ気分で……

少し恥ずかしい事に恐れを感じた。



闇に慣れた目でひたすら前に進んでいると見つけた小さな背中。

「…A…！」


声を掛けただけなのにビクゥッ‼︎と地面から5センチ程飛んだ彼奴。器用な奴だな




『……⁉︎中原君‼︎何で…！早く帰ってよ‼︎』

「…はぁ？こりゃ俺と手前に課せられた任務だ。放棄なんか出来っかよ」


俺が隣にしゃがみ込む。



『そういうんじゃ……ッ！』

何かに気がついたAに少し遅れて「誰だ‼︎出てこい‼︎」と声が掛かる。



『こっち…‼︎』
Aは俺の頭を掴むと恋人が抱き寄せるように自分の首に押し付けさせた。


Aの鼓動が聞こえる。

ドクンドクンと聞こえる音は少し焦った様なAの呼吸音と相まって、緊張感が増していく。




それなのに…



俺の心臓は、何で別の音を出してんだ？


こんな顔…見られたら死ねる……｡

実力．２→←書類

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す