お呼びですか、お嬢様？【太宰治】

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…

久しぶりだな、お父さんと一緒に食べるご飯は。

お父さんはいつも仕事で忙しい。
姿を見ることはあっても、共に過ごせる時間は限りなく少ない。

それなのに、一緒に朝食を摂れるなんて…なんて贅沢なんだろう。

普段と同じ朝食のはずなのに、いつもより美味しく感じるし、それに…。



「学校は楽しいかい？」

『はい！そう云えば、この間ね…』


こんな他愛のない話が出来ることがたまらなく嬉しかった。



だから、このまま幸せに浸っていたかった。



「久々に会える機会に悪いのだけれどね」


「A、一つ…大事な話があるのだよ」



なのに、神様はそんなの許してくれない。



＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿


「いいかい？驚かないで聞いてくれ給え」



「A、君には婚約者がいるんだ」



……カシャンと足元で食器が鳴った。



ずっと隠していてすまなかったね

謝罪の言葉すら、もう耳にしたくない。
それほどに傷ついているのが自分でも分かった。

色んな感情が、頭をぐちゃぐちゃにかき乱していく…

寸前に、誰かの手が置かれた。



「…お嬢様」



嗚呼、落ちたスプーンの替えを持ってきてくれたんだ。


ただそれだけのこと。
なのに、何故か妙に落ち着いて…


何故か、胸がズキリと痛んだ…気がした。


「………」


いつものように、頭をふんわり撫でて去っていく、その動作にも…





あれ？……私、なんで、こんなに傷ついているの…？

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