続編 “死にたがり幹部様”と“殺し屋少女”の奮闘記 (ページ5)

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36.幼き日の扉ページ5

『……太宰には云ってなかったね』

『私ね、元々は貧民街の出身なの』

太宰が驚いたように目を見開く。

対して私は、
また零れそうになる涙を見られまいと、淡々と語りだした。

………少女の幼い記憶の扉が開かれる。

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太宰と出会う、ずっと前の話。

私には八人の仲間がいた。

貧民街を彷徨う、親を知らない子供たち。
私もその中のひとりだった。

『やつがれくん、やつがれくん!』

「……煩い、A」

で、とりわけ仲が良かったのが彼。

物心ついたときから、何もかも隠していた私が、

初めて“姿”を見せたのが彼だった。

根は多分優しいんだろうけど
不思議な能力を持ち、恐れられていた子。

“吠えぬ狂犬”

周りからはそう呼ばれていた。

『ねぇ見てよ!
あの人いっぱい金子持ってたから少しだけ盗ってきたの』

「……」

『あの、何か？』

今思えば
本当は、ただ一緒に居られる友達が欲しかっただけかもしれない。

「全て盗ってこい」

『そしたら金子がない! ってバレちゃうよ』

「貴様の能力は何のために……。」

この頃の私は“自分の姿を隠す”
これが自分の能力だと思っていた。

影に溶け込むかのように姿が消える。
それ故に、貧民街でも生き残ることができていた。

影の仔、と周りはそう呼んだ。

「……帰るぞ A、日が暮れる」

『…はぁい』

貧民街での生活は、確かに地獄だった。

満足に食べることもできずに
只々、凍え死にそうな寒さに耐える日々。

それでも
何処かに幸せを感じていた私は、相当な莫迦なのだろう。

＿＿やがて、ヨコハマにも夜が降りてきた。

寝床……と云ってもふかふかの布団なんか此処にはない。

『…さむいね』

「何時ものことだ」

無表情で返事をするのも、何時ものことだね…と

潤んだ瞳で、
寒さに震えながら彼を見つめた。

「………ﾁｯ、来い」

『やった…ぎんちゃんもくる?』

凍えるような寒さが、幾分か和らいだ。