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電話口では清水先輩がカラカラと笑っている。
まさかのお誘いに思考がまとまらない。でも、
「あははっ、やっぱり無理だよね。ごめんごめん、急にこんなこと──」
「い、行きます!食べます!!」
気がついた時には、私は携帯に齧り付く勢いでそう返事をしていた。
新山女子のご飯はどうだとか、自由時間でもやっていい事と悪い事があるだとか、自主練をしなきゃいけないだとか、考えなければならない事は山のようにあったけど、ただただ、私が「行きたい」と真っ先に思ったその気持ちを口に出していた。
誘ってきたのは清水先輩なのに、「ほんとに?」と驚いた声色で聞かれ、再度しっかりと頷いた。
5分後に行くことを伝え電話を切り、大きく息を吸って、吐く。
「覚悟を決めろ……」
先生に怒られるのが怖いからと、校則を破ったことは無い。おっかない監督にプレー以外で怒られるなんて身が持たないと、監督の言いつけを破ったこともない。何だかんだマネージャーの時だって、自主練を欠かさなかった。
でも──怒られたって構わない。今この時間を逃すくらいなら怒られた方がマシだと思った。
自由時間の間に帰って来れば、バレないし問題ない。
AA、人生で初めて、チームのルールを破り、自主練を怠ります。
「だだ、大丈夫……大丈夫……」
と、心の中で誰に言うでもなく宣言したものの、やっぱり初めての掟破りは緊張してしまう。
こんなんだから弟に身体は大きいクセに気は小さいとかバカにされるんだぞ。
とはいえ誰かに見つかるとまずいことは確かだ。行けるところにも行けなくなってしまう。
キョロキョロと当たりを見回してから、怪しいことこの上ない動きでそそくさと宿舎へと足を進めた。
「……すみませーん……」
見つからないためにも、出来るだけ早く中に入ってしまいたい。
前かがみで扉から顔を覗かせ、どうにか声が届くくらいの大きさで呼びかける。
かすかに皆の声が聞こえるから、そこまで遠い位置にいる訳では無いみたいだけど……。
「は、はいりまーす!」
見つかってしまっては元も子もないので、とりあえず宣言をして中に入って扉を閉めた。
宣言が届いたのか、奥から誰かが駆けてくる足音が聞こえる。パタパタと慌ただしく、でも軽やかなこの足音からして、仁花ちゃんだろうか。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時