159 『理解できない』 ページ10
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──そもそも、Aの現在の実年齢は15歳だ。それはこの大正時代では立派に働ける年齢で、A自身は自分が成熟……、とまではいかないものの、普通にしっかりとした大人だと思っている。
否である。
そもそも孤児から運良く誰かに拾われて15歳まで生きられる確率というのは極小で、基本孤児として生まれた者達は孤児としてその短く儚い一生を終える。基本は栄養失調や餓えで死ぬ。
そしてAは生き残れたわけだ。めでたしめでたし。
なんてことで終われば苦労はしない、彼女の目の前にはそれこそ及びもつかないような高い壁が立ち塞がっていて、それを乗り越える為に梯子を使い建築をし何とか乗り越えようと頑張っているのだ。その壁を乗り越えた先にあるのは苦難、苦難、苦難の連続だ。
何が言いたいかといえば、彼女は途轍もなく過酷な人生を歩んできたということである。
無論彼女よりも過酷で苛烈で無慈悲な人生を歩んできたものは多くいる。しかし通常的で普遍的な人生を送っていた人間からすれば、明日の食料どころか今日の飯、いやそれ以前に同じ人間から殺されやしないか毎日怯える日々など想像もつかない。
そしてそんな人生の半生は、たった一人の人間と触れ合っていることしかなかった。誰か。勿論少年である。
少年としか接してこなかった彼女は、人の感情の機微が分からない。
少年としか喋ってこなかった彼女は、喧嘩した時の解決方法が分からない。
少年としか歩んでこなかった彼女は、どうやって生きていけば良いのか、分からない。
少女は、周りの人間が、本当の意味で理解できない。
+ +
「──おい」
不死川の低い声音が、Aの鼓膜をゆっくりと揺らした。
びくっと肩を揺らした彼女に手を伸ばした不死川は、一瞬その体に触れあうのを躊躇うように止まった。まるで今にも壊れそうなガラス細工を目の前にした子供のように。
けれどその手はそのまま伸ばされ──彼女の黒髪に、触れ合った。
「……悪かったァ。ンな怯えなくて良い。さっきまでみたいに、笑っとけ」
お前には、笑顔が一番似合う。
その言葉は不死川の本心を表していて、そして確かに、彼女と出会った誰もが一度感じたことだった──笑っている彼女が、一番綺麗だと。
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白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ですよね。(真顔) (2020年5月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - やんでゅぇる (2020年5月8日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ありがとう御座いますっ……!!今回の描写とかちょっと人によってはぐろいってなるかもしれないので、いつも注意書きしているのですが嬉しいです。三人称の小説少ないので、万人受けはしないと思っていたのですが……、結構皆反応してくれますね(笑)。 (2020年5月7日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - こういう描写書けるのって凄いです。尊敬します。(※嫌みではないです。純粋にそう思ってます) (2020年5月7日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりなんぽん - Ecarlateさん» 途中から失礼します!私も順番知りたかったのでありがとうございます! (2020年5月5日 15時) (レス) id: 3ac698d03c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年4月26日 17時