198 『彼と私の現実定理』 ページ49
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それで、と煉獄は口を開く。
「誰に。どうして。どうやって、付けられた」
Aは喉を上下させた。この状況で煉獄に逆らえば、どうなるかは分からない。が、少なくとも事態が好転することは絶対にないだろう。じくじくと熱を放つ腹の傷が、それを証明しているように思えた。
深呼吸をして、何とか自分を落ち着かせる。
どう考えても、今の状況は異様だった。その異様さを醸し出しているのは他でもない煉獄で、彼に今話が通じるとは思わない。いや、正確には人道的な会話ができると思わない。
何せAが少し反抗しただけで、躊躇いもなく未だ癒えていない傷を狙った。それに眉一つ動かさないのは、おかしい。──だから分かる。
今の煉獄は、正気じゃない。
「……、知り合い、の人、に。か、噛まれ、ました。合意の、上、です」
普段ならば在り得ないほどに噛んでいたが、それも致し方ない。というか純粋に命の恐怖を感じるぐらいだ。喋り終わった後も、煉獄の反応が怖くてカチカチと歯が鳴る。
言ったことはほぼ本当だ。Aは不死川のことを友達と思っているが、此処でそう言わない方が良いと天性の勘が告げていた。合意の上、という言葉も同様だ。もう少し正しく言うならば噛まれたこと自体は合意ではないが、まぁ『抱いて』だのと言ったのだ、多少の誤差の範囲内である。
煉獄は、無表情で、彼女を見下ろす。
「──事実か?」
「は、い」
コクリ、と頷いた。
ぐっと押さえられている手首が痛くて、耐える為に思わず唇を噛む。痛みに痛みを重ねてどうなるという話だが、そうでもしなきゃ、自分でさえもおかしくなってしまう。この異様な空間にいては、感化されて、おかしくなる──そんな気がしたからだ。
煉獄の唇が開いた。
「そいつは誰だ。男か? まさか恋仲か。鬼殺隊に所属しているのか」
「ぇ」
「答えろ。……答えろ、A少女」
「な、んで」
反抗のつもりなど、無かった。ただただ素朴で純粋たる疑問だった。どうしてそんなことを訊いてくるのか、聞いてどうするつもりなのか、そんなことを訊く為だけに、今、こうしているのか。
……Aにとって、煉獄は命の恩人だ。いや、それ以上の存在でもある。
だから彼に真っ向から反逆する気なんて毛頭ないし、何か訊かれたらそれぐらいのことは素直に答えられる。けれど、この状況でそうできるほど、彼女の神経は図太くはなかった。
──疑問の言葉に、煉獄の瞳が震えた。
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白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ですよね。(真顔) (2020年5月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - やんでゅぇる (2020年5月8日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ありがとう御座いますっ……!!今回の描写とかちょっと人によってはぐろいってなるかもしれないので、いつも注意書きしているのですが嬉しいです。三人称の小説少ないので、万人受けはしないと思っていたのですが……、結構皆反応してくれますね(笑)。 (2020年5月7日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - こういう描写書けるのって凄いです。尊敬します。(※嫌みではないです。純粋にそう思ってます) (2020年5月7日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりなんぽん - Ecarlateさん» 途中から失礼します!私も順番知りたかったのでありがとうございます! (2020年5月5日 15時) (レス) id: 3ac698d03c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年4月26日 17時