196 『安堵を裏切ったのは』 ページ47
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自分の目の前で硬直した少女に、煉獄は目を細めた。
Aは訳が分からない、とでも言うように彼を見ていた。濡れ羽色の瞳に、自分が映っている。──微かに、気分が高揚したのを感じた。
ふっと近づいてみれば、その体が強張ったのが分かった。無論そんなものは無視して、体を前のめりに近づける。
そして、トンと。
彼女の素肌に、人差し指を突いた。びくっと彼女が反応したのことに上がりそうになる口角を抑えつけ、顔を近づけて彼女を見据える。純粋そうなその瞳は、ひどく、怯えているように見えた。
「此処だ。今は消えているが、君を蝶屋敷に運ぶ時に首巻きを取ったら、此処に歯型があった」
「ぁ、ぅ、」
「胡蝶には『鬼に噛まれた』と説明しておいた。そんな訳がないよな、A少女。鬼だったら八重歯の部分がもっと深く食い込んでいるはずだ。どう見ても人間の痕だ」
ぐ、と強く指を押せば、柔い肌に軽く食い込む。彼女は何故煉獄がそうするのか分からないようで、ただ為されるがままだった。
自分で説明しながら、これを見つけた時と同じように、自分の中の何かが募っていく。胡蝶には訝しがられたが、煉獄が言うならば嘘はないだろうという態度であっさりと信じた。
何故、自分がこんなにも苛立っているのか。それは煉獄自身には分からない。分からないが、それがとにかく、嫌だった。
何かを言おうとAの口が開く。それはまたすぐに閉じて、開閉を繰り返す。
煉獄が更に強く、指を押し付けた。それに押されるようにして、Aがやっと意味のある言葉を口に出す。
「た、確かに、噛まれ、ました。で、でもどうし」
「誰に。何故。君は抵抗しなかったのか? 噛まれる程の近い距離にいて?」
矢継ぎ早に質問を重ねる煉獄に、そのあまりにも異様な雰囲気に耐え切れなくなったのか、Aは震える声ながら言い返した。
「な、何でそんなこと────べ、つに、煉獄さんに教える必要なんか、無いじゃないですか!」
────。
否定、するのか。俺を。拒絶するのか。
どろりと、彼の中で何かが漏れた。強固に押し固めていたはずだったそれは、ゆっくりと、何かを形作った。それが何かを自覚しないままに、煉獄は自分の手を引き戻した。
一瞬、安堵の表情がAに浮かんだ。
──すぐさま、それは裏切られる。
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白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ですよね。(真顔) (2020年5月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - やんでゅぇる (2020年5月8日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ありがとう御座いますっ……!!今回の描写とかちょっと人によってはぐろいってなるかもしれないので、いつも注意書きしているのですが嬉しいです。三人称の小説少ないので、万人受けはしないと思っていたのですが……、結構皆反応してくれますね(笑)。 (2020年5月7日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - こういう描写書けるのって凄いです。尊敬します。(※嫌みではないです。純粋にそう思ってます) (2020年5月7日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりなんぽん - Ecarlateさん» 途中から失礼します!私も順番知りたかったのでありがとうございます! (2020年5月5日 15時) (レス) id: 3ac698d03c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年4月26日 17時