195 『訳も判らずに』 ページ46
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兄を呼んで来ます、お部屋で待っていて下さい。
そう千寿郎に伝えられ、現在煉獄(どいつもこいつも煉獄だが勿論杏寿郎である)の部屋に居た。恩人の部屋を勝手に観賞してしまうことに罪悪感が少し芽生えるが、普通に見れることの方が重要だった。
──ヒィ〜〜やばいな凄い綺麗に整頓されてるな〜〜……。私にゃ絶対無理だわ。というか待ってどういう状況コレ。恩人の部屋に一人で居座ってる女がいるってどういう状況コレ。
待って待って私本当に此処にいて良いの? と最早自分が此処にいる状況すら分からなくなって来た彼女の耳に、勢いの良い声が届く。
「うむ! 待たせたか!」
「あっいえ大丈夫です」
そうか! と笑んだ煉獄。にへら、とAも笑った。彼の笑顔は、やはり途轍もない安心を彼女に与えてくれる。それは彼が自分を助けてくれたからだろうか、なんて他愛もないことを思考する。
襖をタン、と閉じる音が、嫌に耳にこびり付いた気がした。
にこやかな笑顔を浮かべて近づいた煉獄に、正座した状態から見上げるA。少し話したいことがあった、と言う彼に何だろうかと首を傾げる。鬼についてのことだろうか。
しかしそんな彼女の考えは、次の一言によって全て、いとも簡単に、呆気なく、崩れ去った。
「君の──首元の、歯型についてだ」
「──」
……ぇ、と喉から空気が漏れた。まさしく漏れたという表現が適していて、反射的に出た声だった。意図などしているはずもない。
唇が意味もなく動く。それから紡ぎ出すのは、言葉なんかではない、ただの音だった。
彼が──何を言っているのかは、分かる。以前の、不死川の。それは分かるのだ。ただ意図が分からない。わざわざ自室まで呼び寄せ、この状況で、それを訊く意味が。分からない。
大体それがいつ見られたのかといえば──、まぁ、十中八九気絶した彼女を蝶屋敷に運ぶまでの間だろう。完全に油断していた。何せ目覚めた時に一度確認したのだが、既に痕は消えていたのだ。抜かったか、いやしかし。別に、見られたって。
どうってことは、ない、はずでは。
煉獄がそんな様子のAに、ゆっくりと、目を細めた。
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白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ですよね。(真顔) (2020年5月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - やんでゅぇる (2020年5月8日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ありがとう御座いますっ……!!今回の描写とかちょっと人によってはぐろいってなるかもしれないので、いつも注意書きしているのですが嬉しいです。三人称の小説少ないので、万人受けはしないと思っていたのですが……、結構皆反応してくれますね(笑)。 (2020年5月7日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - こういう描写書けるのって凄いです。尊敬します。(※嫌みではないです。純粋にそう思ってます) (2020年5月7日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりなんぽん - Ecarlateさん» 途中から失礼します!私も順番知りたかったのでありがとうございます! (2020年5月5日 15時) (レス) id: 3ac698d03c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年4月26日 17時