187 『飛び散った赤が戻ることなく』 ページ38
.
「──！」
煉獄は今一度鬼を見て、息を呑んだ。
鬼の片目に、『下壱』と刻まれている。しかしその上には、それを取り消すように×印があった。──つまり、元、下弦の壱という訳だ。ギリッという音が己の口内から鳴った。
──正直に言って、この状況は、厳しい。
自分の実力が十二鬼月に迫れるほどの実力だ、と宣言できるほど煉獄は
そしてそんな己の勘が、『不利だ』と告げていた。
ぽたり。汗が一粒、刀に掛けている自分の手に落ちる。全集中・常中は既に取得済みだ。そして剣技はずっと研鑽していた。
母が亡くなっても。父が飲んだくれになり自暴自棄になっても。自分に剣技の才能が無いと気づいても。ひたすらに炎柱の書を読み込み、木刀と真剣を振り、己を高めて来た。その努力だけは、無駄ではないはずだ。
──そのはずだ。
Aをちらりと見遣った。既に刀を抜き臨戦態勢だが、動こうとはしていない。煉獄の行動を待ってくれている。……良い後輩を持った、と煉獄はこんな状況でさえも微笑むことができる自分を少し誇らしく思った。
「肉。人、血……、喰わ、せろ。そうすればぁ、また、下弦に……！ あの人に！ 血、血を！！ クソが、上弦なんてみんなクソ喰らえだ、稀血ぃ、何でもいい、喰わせ……喰わせろぉぉおおおお！！」
「──」
狂ったように叫んで頭を掻き毟った鬼は、ぎょろりとその目で煉獄を見た。──ニタリ、と半月形に、その唇が裂かれた。
煉獄は爆発的な速度で迫って来た鬼を軽くいなし、すれ違いざまに『不知火』を叩き込んだ。鬼の片腕が吹っ飛んで、そしてすぐさま再生する。
「──だらっしゃァ！」
そしてそれに追い打ちをかけるように、Aが上から飛び降りて、首を目掛けて斬ろうとする。重力の助けもあり、それはかなりの重量と
「ッ」と空気の塊が喉を通った。刀を振り下ろした状態だったので、どう足掻いても退避できない。鬼の再生した腕がその眼前に振りかぶられる。それをただ見ていることしかできないAは、嘘だろという言葉が、漏れた。
鬼の血ではない、人間のつい先程まで心臓を廻り人の中にあった血液が。
飛び散った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 175人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ですよね。(真顔) (2020年5月8日 21時) (
レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - やんでゅぇる (2020年5月8日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ありがとう御座いますっ……！！今回の描写とかちょっと人によってはぐろいってなるかもしれないので、いつも注意書きしているのですが嬉しいです。三人称の小説少ないので、万人受けはしないと思っていたのですが……、結構皆反応してくれますね(笑)。 (2020年5月7日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - こういう描写書けるのって凄いです。尊敬します。(※嫌みではないです。純粋にそう思ってます) (2020年5月7日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりなんぽん - Ecarlateさん» 途中から失礼します！私も順番知りたかったのでありがとうございます！ (2020年5月5日 15時) (レス) id: 3ac698d03c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白夜の世界
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時：2020年4月26日 17時
