172 『賽は投げられた』 ページ23
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何を。今、何を。
俺は唖然としながら、一度急停止した脳を再起動させた。妙に速くなってしまった鼓動が嫌な音を立てて、耳に届く。は、と息を吐く音が聞こえた。
「……お前、」
「知ってる。意味は知ってるから。頼むよ、なぁ」
絶対に俺に顔を見せないとでも言うように、Aが俺の胸に顔を押し付けた。黒い髪も、小さな身長も、白い柔肌も、今の俺にとっちゃ猛毒と変わりなかった。何なら猛毒の方が良いぐらいだった。
声が出ない。何せそんなことを言われたのは初めてだ。いや逆に言われた奴の方が凄いと思うが。違う、そうじゃない。今はそんなことを考えている場合じゃない。どう考えても今の状況はおかしいのだ、何がおかしいのかって、──そう。こいつの、言葉。
「何言ってやがんだァ……！！ する訳ねェだろ、よく考えろバカ野郎！」
思わず出た大声に、Aがビクリと怯えるように肩を跳ねさせた。だが俺の体からは離れようとせず、今言ったことを否定するように力強く首を振った。
ふざけんな、と心の中で何かが言った。こんな。こんな状況でして良いはずがない、こんな理由でして良いはずがない、こんなに怯えた状態でできるはずがない。
けど俺の体は、動かなかった。Aを無理に引き剥がそうとしなかった。違う、それは。それは今離れたら、彼女が壊れそうだったからだ、と言い訳がましく自分に言い聞かせる。何の意味もない、無駄な、言葉だった。
──お願い、だからぁっ、とAが嗚咽交じりの声で言った。
ぷちん、と何かが切れた。
「ぅあっ」
どさり、と音がする。二人分の体重の負荷がかかり、ギィッとベッドが悲鳴を上げた。俺がベッドに押し倒したAの矮躯は、どこもかしこも雨で濡れていた。白いシーツに、濡れた黒髪が良く映えたのが目につく。浅く速い呼吸音が、二人きりの空間で混じり合って溶ける。ひどく、嫌な、空気だった。
Aの顔の横に手を突いて、じっと目の前の濡れ羽色の瞳を見つめた。コイツはまたしても、意味がない呻き声を、微かに上げるだけだった。──この状況から何一つとして、あいつが為せることはなくなった。先程まで確かに存在していた主導権を、コイツは自ら、手放した。
自分の手をきゅっと握り締めて震えているAの姿に、ドス黒い感情が浮かんでくるのが、今度こそはっきりと自覚できた。
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白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ですよね。(真顔) (2020年5月8日 21時) (
レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - やんでゅぇる (2020年5月8日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ありがとう御座いますっ……！！今回の描写とかちょっと人によってはぐろいってなるかもしれないので、いつも注意書きしているのですが嬉しいです。三人称の小説少ないので、万人受けはしないと思っていたのですが……、結構皆反応してくれますね(笑)。 (2020年5月7日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - こういう描写書けるのって凄いです。尊敬します。(※嫌みではないです。純粋にそう思ってます) (2020年5月7日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりなんぽん - Ecarlateさん» 途中から失礼します！私も順番知りたかったのでありがとうございます！ (2020年5月5日 15時) (レス) id: 3ac698d03c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白夜の世界
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時：2020年4月26日 17時
