170 『物語』 ページ21
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ぁ、うあ、と言葉が出ないAの膝裏に手を回して、持ち上げる。背中と膝をしっかりと持ち上げて抱きかかえるそれは、現代ならば『お姫様抱っこ』と呼ばれるものだ。
お姫様なんかじゃ、なかった。ただ知らない男に触られて、それに怯えた少女だった。
王子様なんかじゃ、なかった。ただ彼女が誰かに触られて怯えている、その事実だけで相手を殺したくなる青年だった。
綺麗な物語なんかじゃない。
これは汚い物語だ。
互いの傷を舐め合う物語だ。
ただの少女が成長する物語だ。
それに巻き込まれる他人の物語だ。
血を血で洗う物語だ。
犠牲なしには前へ進めない物語だ。
ただ人だったものを殺して進む物語だ。
人生をバッドエンドで塗り潰した物語だ。
幸せなんざ何も考えちゃいない物語だ。
無垢を邪に汚す物語だ。
少女の軌跡を、辿る物語だ。
+ +
宿屋に入れば、主人が驚きの目で此方を見つめて来た。それはそうだ。ずぶ濡れの男が同じくずぶ濡れの女を抱えて上半身裸で帰って来たのだから。その傷だらけの体に、不躾な視線が幾つも当てられる。
その視線から彼女を隠すように抱え直した不死川は、黙ってAが予約していた部屋の扉を潜った。ぱたん、と洋式の扉が閉まった。
「寒いか」
「え、あ、あぁ、そうだな……。寒い、な」
洋式のベッドにゆっくりとAを下ろす。こく、と頷いた彼女に、布団をバサリとかける。
お前は、とでも言いたげな表情をしたAが分かりやす過ぎて、少し苦笑してしまう。「俺は大丈夫だァ」と安心させる声音で告げた。ほ、と彼女が一息吐いた。事実彼はこれだけ濡れたぐらいでは何ともないし、いつもほぼ半裸のような状態なので寒さには耐性がついている。
……、彼女は心配ではあるが、これ以上女性の部屋に男が長居してはいけないであろう。不死川はそう考え、「隣の部屋にいるぜ」と残して、部屋を出て行こうとした。
その手を、弱々しく、Aが引っ張った。
目を見開いて振り返った不死川に、彼女は弱々しく、自分のわがままを告げた。
「いかないで、くれ」
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白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ですよね。(真顔) (2020年5月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - やんでゅぇる (2020年5月8日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - まくすうぇるさん» ありがとう御座いますっ……!!今回の描写とかちょっと人によってはぐろいってなるかもしれないので、いつも注意書きしているのですが嬉しいです。三人称の小説少ないので、万人受けはしないと思っていたのですが……、結構皆反応してくれますね(笑)。 (2020年5月7日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
まくすうぇる(プロフ) - こういう描写書けるのって凄いです。尊敬します。(※嫌みではないです。純粋にそう思ってます) (2020年5月7日 21時) (レス) id: db32ad90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりなんぽん - Ecarlateさん» 途中から失礼します!私も順番知りたかったのでありがとうございます! (2020年5月5日 15時) (レス) id: 3ac698d03c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年4月26日 17時