4 『癒えない傷口』 ページ4
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「ねぇ。ねぇ」
少年は最初、それが誰に向かって掛けられている声なのか分からなかった。というよりも、分かろうとしなかった。己にこんな優し気な声で喋りかけてくる者がいなかったからである。
が、とんとんと、肩を叩かれ。
少年は、反射的に顔を上げた。
少年と少女、ふたりはしばし見つめ合う。
──この瞬間。刹那の間。たった一秒程の僅かな時間は、後の二人にとって永劫に忘れられない寸刻となる。
「ぇ、あ、」
少年はあたふたし、反射的に目を逸らし、顔を俯かせた。少女はそんな様子の少年に首を傾げたが、再度、「ねぇ」と声を掛ける。
「ぁ……、なん、ですか」
敬語だ。少女は驚いた。敬語を使う人物は少女の周りにはほとんど居なかったからだ。といっても、少女も敬語について詳しく知っている訳ではなく、目上の人に使う言葉として認識しているだけだ。
それが正しい言葉とも、綺麗な言葉とも、思ってはいない。
……ともかく、少女は少年に一番聞きたいことを尋ねた。
「どうして、そんな目とかみの色なの?」
「──」
子供は時として、人が一番触れてほしくない部分に触れる。幼さ故に、無知な故に。無知は罪である、と誰かが言っていたが、まさにそうかもしれない。
少女の言葉は、少年の心の一番柔らかい部分を的確に、抉った。その鋭さが、純心が、少年を傷つける。
少女は即座に己の行動を悔いた。違う、あなたにそんな顔をしてほしかったわけじゃない。
少年は何百回と言われた言葉を、未だ癒えない傷口を、そっと封じ込めて笑った。
「──生まれつき、です」
「──……そう。そうなんだ」
この時少女は、少年にそう言っただけで終わった。もっと言いたいことはあった。何故笑ったの、何故そんな悲しそうなの、何故答えてくれたの。
だが少女は何も言わなかったし、少年も何も言わなかった。
──少女は、それを一生後悔することになるとも知らず。
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白夜の世界(プロフ) - 内田さん» 応援ホントありがとう御座います……!皆様の心を動かせるような小説を書くために頑張ります!! (2020年4月15日 17時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
内田(プロフ) - はじめて読ませていただきました!すごく面白くて、少女ちゃんの生い立ち、すごく感動しました。これからも応援させてください! (2020年4月15日 16時) (レス) id: 2320622f76 (このIDを非表示/違反報告)
燐火 - 成程・・・。私の合作相手もそんな感じですよww (2020年4月14日 12時) (レス) id: 0a3e20f243 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 燐火さん» えぇ、合作はしない主義ですね。自分がパソコンにかじりついていられる時間が非常に不定期ということやその他諸々ありまして……。 (2020年4月12日 8時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
燐火 - 白夜の世界さんって合作とかしないんですか? (2020年4月11日 16時) (レス) id: 0a3e20f243 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年3月28日 16時