12 『ぼろ雑巾』 ページ12
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問答をしている間にも、どんどんと刻限は迫って来ていた。
少女の傷は決して浅いものではない。このまま適切な処置を行わなければ確実に出血多量で死に至る。それをおくびにも出さず、少年を安心させる為だけに笑みを浮かべる少女。
そんな少女の想いを、一体誰が、否定できよう。
だが、世界は無情で、無慈悲で、残酷だ。
小屋の中から人影が飛び出してくるのが、少女の視界の端に映りこんだ。悪態を吐く暇もなく、少女は少年を突き飛ばして、己の腕を掲げた。
「ぁっがぁああ……!」
飛び込んで来たものは、掲げられた少女の痩せ細った腕に噛みついた。少女は痛みに呻いたが、その腕にそのものを噛みつかせながら地面に押し倒し、馬乗りになった。
瞬間、少女は息をすることも、痛みも、忘れる。
それは、人間だった。
否、──化物だ。
姿かたちは人間だが、これほど牙と爪が鋭く伸びた人間を少女は見たことが無い。生物として歪なソレに少女は言葉を失うが、腕と肩の焼け付くような痛みですぐに現状を打破する為に脳を回転させる。
少女が噛みつかせたのは、先に傷つけられていた右肩──右腕だった。刹那の状況判断だった。少女は痛みを耐えても、無傷な腕を残す方を選んだ。
化物は少女の腕を噛み千切るのを諦め、尋常ならざる筋力で少女を己の上から吹っ飛ばした。吹っ飛ばされた少女は、血液が足りないせいでろくに動かない頭で思う。
──こいつ、一体どうなってやがる。大人だからって、馬乗りになられた状態から、15近い女を吹っ飛ばすだと? どんだけ力強いんだよ、何なんだよ。
地面にぼろ雑巾のような体で打ち捨てられた少女は、必死に喘ぎながら酸素を取り込む。
「はァ、はひゅっ、おま、お前ぇ……!」
「けっ、やっぱり孤児か、お前。孤児は肉が少ねぇし、栄養が大してねぇから美味くない……、それも男。女なら柔らかいから何とか食えそうだが」
ぶつぶつと文句のようなものを言っているのが、辛うじて少女の耳に届く。震える足を鼓舞して立ち上がり、化物を睨みつけた。
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白夜の世界(プロフ) - 内田さん» 応援ホントありがとう御座います……!皆様の心を動かせるような小説を書くために頑張ります!! (2020年4月15日 17時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
内田(プロフ) - はじめて読ませていただきました!すごく面白くて、少女ちゃんの生い立ち、すごく感動しました。これからも応援させてください! (2020年4月15日 16時) (レス) id: 2320622f76 (このIDを非表示/違反報告)
燐火 - 成程・・・。私の合作相手もそんな感じですよww (2020年4月14日 12時) (レス) id: 0a3e20f243 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 燐火さん» えぇ、合作はしない主義ですね。自分がパソコンにかじりついていられる時間が非常に不定期ということやその他諸々ありまして……。 (2020年4月12日 8時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
燐火 - 白夜の世界さんって合作とかしないんですか? (2020年4月11日 16時) (レス) id: 0a3e20f243 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年3月28日 16時