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9 『とある寺子屋』 ページ9

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 そんな少年少女。先に述べた通り、ふたりはまぁ何度かガチで死にそうになったものの何とか生きていた。


 少年が病弱であるのに対し、少女はその年頃の健康な男の子に比べても筋力などがあった。段々と上がって来た身体能力。
 暴行してくる大人達に反撃をしようと考えたこともあったが、一対一ならギリギリ勝てるかもしれないが複数でやられたら一たまりも無い。一対一なら勝てると考えられる時点で凄いのだが。



「ジイさん。大丈夫か、ボケてねぇか?」

「お久しぶりです。この子が失礼してます」



 話は変わるが、二人はとある寺子屋に来ていた。


 あの小屋からは少し遠いものの、歩いて辿り着ける程度の距離にある小屋。ひとりの年配の男性が経営しており、習いに来る子供はきちんと親に通わされている子達だ。

 切っ掛けは、珍しく二人が一緒に外へ出ていた時、興味を持って寺子屋の授業の様子を外から覗いていたことだ。それから何度か外から覗いていたのだが、まぁ流石にバレる。



 だがその男性は二人を怒ったりなどせず、むしろたまに食料を分けてくれた。金平糖と呼ばれる菓子を口に含んだ時、二人は泣いた──比喩ではない。
 本当に、それほど美味しいものを食べたことが無かったからだ。


 それから二人はよく此処に遊びに来る。断じて食料目当てに来ている訳ではない。




 ──男性が、少年の見た目を差別しなかったからだ。

 優しく微笑んで、「辛かったろうな」と言ってくれた。少年と少女がこの男性を信用するには、十分過ぎる一言だった。




 少女の口の利き方を矯正しようとしたり、勉学の豆知識を教えてくれたり、何かと良い人である。



「ボケてなどおらんよ。相変わらず口の悪い子じゃのう、少年を見習え。もし目上の人に会ったら如何するつもりじゃ」

「目上の奴なんて、ここらに来ねぇだろ! すなわち俺が礼儀を知る必要性は無い!」

「阿呆め。そういう問題じゃないんじゃ」



 こつん、と少女の額を小突く男性。「あいでっ」と少女は言ったものの、その顔には笑みが浮かんでいる。少年も頬を緩ませている。


 平和な光景であり、平穏な状況であり、最高の時間。

 少年と少女と男性はその時間をたしかに共有し、思いも共有していた。誰にも奪えないひと時が、たしかにそこには存在していた。






 ──この時だけは。





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白夜の世界(プロフ) - 内田さん» 応援ホントありがとう御座います……!皆様の心を動かせるような小説を書くために頑張ります!! (2020年4月15日 17時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
内田(プロフ) - はじめて読ませていただきました!すごく面白くて、少女ちゃんの生い立ち、すごく感動しました。これからも応援させてください! (2020年4月15日 16時) (レス) id: 2320622f76 (このIDを非表示/違反報告)
燐火 - 成程・・・。私の合作相手もそんな感じですよww (2020年4月14日 12時) (レス) id: 0a3e20f243 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 燐火さん» えぇ、合作はしない主義ですね。自分がパソコンにかじりついていられる時間が非常に不定期ということやその他諸々ありまして……。 (2020年4月12日 8時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
燐火 - 白夜の世界さんって合作とかしないんですか? (2020年4月11日 16時) (レス) id: 0a3e20f243 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/  
作成日時:2020年3月28日 16時

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