君が私を覚えていないのなら【太宰治】

奇跡 ページ18

太宰side



あれから数週間が過ぎた。



Aと私は数日おきに一緒に出掛けた。



一緒に行った場所、行きたいと言っていた場所、そうでなくても、私が一緒に行きたいと思った場所。



しかし彼女は私との記憶の一欠片も思い出せないようで。



次第に彼女も、私との関係について想像がついたみたいで他愛のない話をする時でさえちょっと嬉しそうな、照れたような顔を見せてくれるようになった。



でもそれは、私の哀しみを想像してしまうことになってしまった。



一緒に出掛ける度に｢ごめんなさい｣と言うようになった。



待ってくれ、私は謝罪なんて求めてない。



唯、君の幸せを取り戻したいだけだ。



さて、そろそろ行きたい場所もなくなってきたかな。



あとひとつ＿＿＿＿私と君が出会ったあの路地裏に、明日君を誘ってみようか。



私達が運命の出会い＿＿＿＿少なくとも、私はそう思っている。



出会うべくして出会ったのだろう。



普段は紙……間違えた、神なんて信じやしないタチだけど、その時ばかりは素直に礼を言った。



本当に、奇跡だと思ったのだよ。



あの時私があの路を通っていなかったら。



あの時君があの場に居なかったら。



私達は他人のままだったのだろうね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次から過去編になります。

ドラマチックー過去ー→←山程

ラッキーアイテム

革ベルト

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す