おやすみなさい、また今度【中原中也】 ページ19
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無機質な機械音はAが未だ生きていることを証明してくれていた。然し彼奴は死にそうな顔で俺を見上げている。
「病気で死ぬとは私も情けないですね。体調管理もできないとは……」
弱々しい声は聞く者を不安にさせ、もう死んでしまうのかと思わせてしまう。そうだ、Aは死ぬ。
Aの為に用意された病室は清潔に保たれており、エリス嬢が描いた絵などが壁に貼られていた。
他にも無花果や檸檬。和風な小物など其々の個性が溢れた見舞い品が置かれていた。其の持ち主はこれから死ぬのかと思うと悲しくなる。
「中也さん、今までお世話になりました」
寝台の上でAは満足そうに笑う。何故笑えるのか不思議で仕方がなかった。此方は悲しいというのに。
「手前は死ぬのが怖くねぇのか?」
近くにあった椅子に座り、Aの手を握る。驚くほど冷たかった。
「人間って何時かは死ぬんです。今更恐れてちゃ駄目ですよ。来世に期待したい……と云いたいところですが私は人を殺しすぎました。地獄に永住するしかないですね」
笑う姿さえ儚く、今にも消えてしまいそうな予感がした。消えてほしくないと願い乍ら手を強く握る。Aは少し驚いていたが握り返してくれた。
「私、死ぬ時は笑うって決めているんですが……少し無理そうですね」
貴方を見ていると泣きそうです。とAは云う。俺だって泣きそうだと返した。
「えぇ? 泣かないでくださいよ。死にたくても死ねないじゃないですか」
「手前が此処に残ってくれるなら俺はどんなものでも犠牲にする」
「あら、嬉しい。然し我が儘はいけませんよ。死には抗えませんから」
Aは喋ることを止めなかった。今話さなくていいようなどうでもいいことを話し続け、これからはお酒を控えるようになど小言も受けた。
然し其の声すら貴重で、一言一句聞き逃さないように耳を傾ける。
「……死にたくないなぁ」
最後にそう呟いていたのも聞こえた。
「なぁA____」
探偵社にいる異能者に頼めば治るんじゃないか? と云おうとしたが遮られる。
「敵に頼れませんよ。面子が潰れるじゃないですか」
Aはなにがあろうと死ぬ心算だ。止めることは不可能。俺は看取ることしかできない。
Aは俺の名前を呼んだ。
「おやすみなさい、また今度」
機械音が、Aの人生の終わりを告げた。
「また今度? 嘘吐くなよ」
力を失ったAの手は、生きている時と変わらず冷たかった。
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眠夢_(プロフ) - まって…………なんだこの作品は……ありえない……神がかりすぎている……やばい……マジで作者様も作品も愛してます。すっごい泣けました…… (2021年6月10日 1時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
練 紅愛(プロフ) - 泣けた…目が涙出いっぱいで目の前のスマホがまともに見れずに鼻水をすすってました←更新まってます!!リクで宮沢賢治くんお願いしまっす!! (2017年7月29日 13時) (レス) id: f1113fa5e6 (このIDを非表示/違反報告)
零夜 - あれ?可笑しいな。視界が歪んで文字が見ずらい…なんでかなぁ??更新頑張ってください! (2017年7月29日 12時) (レス) id: d97c7ef749 (このIDを非表示/違反報告)
夜野猫 - 初めまして。貴方様の作品大好きです! 特にとある幽霊の苦労話がとても切ない感じでした。リクで中也、お願いします! (2017年7月19日 7時) (レス) id: f7cd2e3a78 (このIDを非表示/違反報告)
ルキア(プロフ) - こんばんは!はじめまして!どのどのお話も切なくて泣けます(T_T)。リクエストでドストエフスキーさんと谷崎君をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?。 (2017年7月18日 20時) (レス) id: c7e2de022e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天原依愛 | 作成日時:2017年5月22日 17時