23/松下村塾の悪ガキ三人 ページ23
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【A視点】
「夜になる前に逃げろ。いいな」
───桂小太郎は、それだけ言うとさっさとどこかへ行ってしまった。私の返事も聞かず「借りは返さん」と背中を向けて沈みかけた空の下、束ねた髪を揺らしていた。
「丁度くだらんゆとり教育には、うんざりしていた所だ」
が。しかし。
私はそんなに出来たガキじゃない。
あんな端的ぽっちを残されてそれでのこのこ逃げおおせるなんて道は死んでも踏まない。
とっくに太陽は沈み、大きな月光が夜道を照らしている。
塀に身を潜め、小声で話す二人の姿を視界に入れた。
「名門講武館きっての神童と悪童が手を組むんだ」
ガキには似合わない、余裕でたらふくの微笑みを浮かべる桂。また顔に新しい傷を作ったらしい高杉の二人にそっと歩み寄る。
名門。神童、悪童。
腑に落ちないフレーズが連なった。
「役人の足止め位たやすかろう」
「お前ら二人が名門? 笑わせるねェ」
いつもよりも軽い肩。
木刀をひけらかし、ニンマリ笑った。
「松下村塾の、悪ガキ三人の間違いだろ」
二人の目が丸く見開かれる。
いつもは澄まし顔の間抜け面二つに浅くとも優越感に浸れた。
「A、何故ここに! 逃げろと言ったであろう!」
「松陽なら逃がした。つーかお前ナチュラルに名前呼びだけど私許可してないよね」
「俺はお前にも逃げろと言ったんだ! それに、女子がこんな時間に出歩いては危険だぞA!」
「性別なんざ産まれた時にへその緒と一緒に捨ててるよ」
もう名前呼びに関しては突っ込まない事にした。
「……学校のサボり方、夜遊び、ここまで覚えたらもう立派な
じっと、黙ってコチラを見つめるだけの高杉。
イマイチ何を思っているか分からないその目を見て言う。
イマイチ分からない目、だがその中心にある確かな芯は覗かずとも伝わってきた。縄で吊るされていたあの時より、随分といい目になったもんだと思った。
「退くなら今のうちだ。士籍を失う前に、全部私に任せてくれて構わないよ。あんなオヤジ共には私一人で充分だ」
言って、背を向ける。
けれど。
空白のこれっぽっちも作らずに、両脇から二人の侍が顔を出した。人の気遣いを清々しい顔で蹴りやがったバカとバカは、
私の頭を右から左から小突いて、ニヤリと。
「この手で見つけ」
「この手で掴む」
高杉、桂と続いた。
「「だから、バカの手を掴むのも俺達バカヤローだ」」
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佑依佳 - すごく良かったです。パスワードを教えてくれませんか (4月15日 10時) (レス) id: 4b4e019a12 (このIDを非表示/違反報告)
LIARPIERROT(プロフ) - こちらの作品のパスワードは作者様が作者ページに掲載してらっしゃいます。確認してからコメントしましょう。 (12月21日 20時) (レス) id: 7068d0a9b2 (このIDを非表示/違反報告)
茜 - 初めて読みました。とても感動して続きを読みたいと思いました。なので続きを読ましていただきたくパスワードを教えてくれないでしょうか?これからも頑張ってください!! (11月19日 15時) (レス) id: fd0a1b2f31 (このIDを非表示/違反報告)
菖蒲 - 続きを読みたいのですが、パスワードを教えてくれませんか? (10月20日 12時) (レス) id: de6a447dfa (このIDを非表示/違反報告)
白虎 - 続きを読みたいのですが、パスワード教えてくれませんか? (8月16日 23時) (レス) @page3 id: ec81a6d504 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:糸針 | 作成日時:2018年9月21日 23時