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50/約束 ページ50

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「………しょうよっぅ」


喉仏を圧迫されて上手く名前が紡げない。

悔しい。悔しい。悔しくて本当に死にそうだ。

叫びたいのに、手を伸ばしたいのに。去り行く愛する人の背中が無限に遠くて。満月が異様に明るくて目に痛くて。


「───A」


いつもと変わらない優しい声で、自分の名前を呼ぶその人がたまらなく。


「あとの事は頼みましたよ」


堪らなく、愛おしくて。


「なァに、心配はないよ。私はきっとスグにみんなの元へ戻りますから」


君の元へ、帰りますから。


「だから……だからそれまで、」


胸が痛い。心臓がめりめりなんて音を立てて熱と氷で破裂しそうなくらいだった。

Aは泣きたかった。

鼻水を垂れ流して涙を垂れ流して叫びたかった。

でも、とても泣けなかった。


「仲間を。みんなを護ってあげてくださいね」


振り返った松陽の横顔は、今までで一番優しかったから。


「約束……ですよ」


そうやって……後ろ手に小指をたてた。


「しょ、ぅ、ょッ……」


ギリッ、ギリリッ!!

どれだけ腕に力を込めても、どれだけ歯を食いしばっても、どれだけ首を振っても、どれだけ身体をよじっても、どれだけ泣きたいと思っても。

残酷な程に現実は、松陽を奪ってゆく。


「しょうよぉおおおォオ───!!」


子兎は、たったそれだけ一吠えすると、
力尽きたように瞼を下ろした。


「……………」

「───?」


ヒタリ。松陽の足が止まった。

"朧"は不思議そうにその背中を見やる。すぐさまその目は、丸く見開かれることになった。

その場に立つA以外の人間がそこに"立った男"に息を呑み、肌をパリパリに凍らせる。空気が一変した。世界が丸ごと切り替えられたようだった。

男の瞳は血のように生々しい赤色だ。


「A……いや、」


拘束すら忘れる男の底知れぬ空気感。

容易く、眠りに落ちたAの元まで歩んでゆくその男。酷く、酷く真っ平らな、顔立ちが。


(まこと)よ」


Aのように膝を着き、そして、幼い寝顔に額を寄せた。今度は酷く、酷く悲しそうな、顔立ちで。


「必ず、迎えに来る」


そう、少女の額に接吻を落とした。

終えると酷く、酷く真っ平らな顔で、拘束の中へ自ら身を戻す。

我に返った烏どもは一度欠落した殺意を再び張りつめた。


「………」


"虚"は、眠るように姿を消した。

残された"松陽"は、ただ、満月に向かって歩いた。




きっと。また会える。





【銀の芽篇──完】

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佑依佳 - すごく良かったです。パスワードを教えてくれませんか (4月15日 10時) (レス) id: 4b4e019a12 (このIDを非表示/違反報告)
LIARPIERROT(プロフ) - こちらの作品のパスワードは作者様が作者ページに掲載してらっしゃいます。確認してからコメントしましょう。 (12月21日 20時) (レス) id: 7068d0a9b2 (このIDを非表示/違反報告)
- 初めて読みました。とても感動して続きを読みたいと思いました。なので続きを読ましていただきたくパスワードを教えてくれないでしょうか?これからも頑張ってください!! (11月19日 15時) (レス) id: fd0a1b2f31 (このIDを非表示/違反報告)
菖蒲 - 続きを読みたいのですが、パスワードを教えてくれませんか? (10月20日 12時) (レス) id: de6a447dfa (このIDを非表示/違反報告)
白虎 - 続きを読みたいのですが、パスワード教えてくれませんか? (8月16日 23時) (レス) @page3 id: ec81a6d504 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:糸針 | 作成日時:2018年9月21日 23時

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