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19/俺より強い女 ページ19

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【晋助視点】


「ではお大事に。帰り道には気をつけて」


ニコニコと手を振るその人に俺も無言で会釈を返した。

松下村塾、そんな名前が綴られた表札を一瞥するだけで踵を返す。頬に貼られた湿布が皮膚をピリピリと冷やし、また右手の甲が痛んだ。


───俺は、アイツに負けた。

前半は、まだ余裕があった。

いける。なんて確信もあった。

だが、後半戦からアイツの動きが見えなくなった。

まさかあんなふらふらした女に負けるなんて思っていなかった。


「負けた人間の顔にしてはやけに清々しいな」

「……桂、見てたのか」

「こっそりとな」

「やり合った俺よりボロボロになってんのは、一体どういうわけだ」


何事も無かったように腕を組んでいる桂だが、その顔には引っ掻かれたような赤い線が縦横に巡っていた。

加えていつもは整っている髪の毛もグシャグシャだ。


「いや、白猫が愛らしい肉球を無防備に晒して寝ていたものでな。つい手が伸びてしまったのだ」

「それで返り討ちにあったと」

「ああ。発狂された」


バカだコイツ。

引っ掻かれても幸せそうな顔してんだから。


「……ったく」


どいつもこいつもバカばっかりだ。

再び、松下村塾を振り返る。夕焼けに溶け込んだ木造は確かにへたっていたが、それ以上の存在感と空気感を持っていた。

夕日の橙色に混じって銀色が鈍く光っているような気がした。


「……あ」


気がした、のではなくそこに居た。

柄の装飾が独特な真剣を右肩に、何ら変わらねェ仏頂面で俺を見ていた。


「銀髪女子……?」


佇むのみで微動だにしないアイツを不思議に思ったらしい桂が、ぽつりと洩らす。

俺は目線だけではなく身体ごとアイツと向き合った。

何処からか、にゃぁ、と猫の声。


「………」

「………」

「………」

「………」


俺もアイツも無言。

桂が間抜けな面で俺とアイツを交互に見比べている。その間も俺達はどちらも一切言葉を発しない。交じる視線だけが熱を孕んでいた。


「待ってる」

「───!」


やっと聞こえた言葉はたったそれだけだった。

用を終えたアイツは、さっさと背を向け家屋に入って行く。

引き戸が閉まり切るまで、ずっとその銀髪を見つめた。


「あの言葉、また来いと受け取るべきなのだろうか」

「……さァな。そうだとしたら、」


言われなくても何度でも来てやるよ。

俺が勝つまで、お前を負かすまで。


何度でも破りに来てやる。

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佑依佳 - すごく良かったです。パスワードを教えてくれませんか (4月15日 10時) (レス) id: 4b4e019a12 (このIDを非表示/違反報告)
LIARPIERROT(プロフ) - こちらの作品のパスワードは作者様が作者ページに掲載してらっしゃいます。確認してからコメントしましょう。 (12月21日 20時) (レス) id: 7068d0a9b2 (このIDを非表示/違反報告)
- 初めて読みました。とても感動して続きを読みたいと思いました。なので続きを読ましていただきたくパスワードを教えてくれないでしょうか?これからも頑張ってください!! (11月19日 15時) (レス) id: fd0a1b2f31 (このIDを非表示/違反報告)
菖蒲 - 続きを読みたいのですが、パスワードを教えてくれませんか? (10月20日 12時) (レス) id: de6a447dfa (このIDを非表示/違反報告)
白虎 - 続きを読みたいのですが、パスワード教えてくれませんか? (8月16日 23時) (レス) @page3 id: ec81a6d504 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:糸針 | 作成日時:2018年9月21日 23時

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