禽も困しめば車を覆す

. ページ46

最初は毎日来ていた通知もAが頻繁にツイートするほうではないから、一週間もしたらほとんどの人が興味をなくし落ち着いていった。

まぁ、まだまだ裏垢のほうではお祭り騒ぎ状態であるが、裏垢は裏垢。いくらそんなツイートが投稿されようとも普通にAが生活する分にはなんの問題もなかった。そのうえAが自分自身で発信した噂なんだから、それなりの覚悟ある。

現在、賛否両論のあるAの記事は炎上商法とは聞こえが悪いが、他の編集部のライターよりも閲覧が増えたのは事実。

興味本位でも、野次馬根性でも。残る数字はただAの記事をクリックしたという事実だけ。

次はどんな記事を書こうかと食堂でボールペンでノートを叩いているときに。

「すみません、AAさんですか？」

「……え？」

この声は昔に聞いたことがある。

覚えているものより声は少しだけ低くなり、喋り方はこれ以上ないくらいに丁寧になっているが、本能的に忘れていない。忘れちゃいけないというようにAの体が危険信号を送っている。その声に生理的に受け付けない不快感を感じ、鳥肌と冷や汗が浮かぶ。

持ち上げられない顔はいつも以上に青白くなっているんだろうと思う。

ついに、ついに、ついに。

その時がやってきた。


「…初めまして。Aさん！」

Aの過去のトラウマと対面するときが巡ってきたのだった。

.→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す