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河村から指定された場所は現在のオフィスからもAの通う東大からも離れているカラオケボックスだった。
河村からハッキリとは聞いていないがAが調べた結果、その場所はQuizKnockが立ち上げられた当初のオフィスの近くだと思われる。
河村にとっては色々なことを思い出すノスタルジックを感じる場所かもしれないが、Aにとっては家からほど近いというだけ。でも、帰り道の途中にあるカラオケ店ということはとても好都合であった。
この待ち合わせのためだけと言っていい、この後使うことのないかもしれない河村と、交換した通話アプリにメッセージが来ていた。
既に河村は中にいるという。
まさか、奪われた高校生活の中で憧れていたカラオケに仲のいい友達とではなく、こういう形で河村と来ることになってしまって苦笑いがひとりでにこぼれた。
受付に声をかけ河村から送られてきた部屋番号の部屋に向かう。
腕時計で時間を確認すると約束の時間には間に合ったよう。緊張でなんだか喉が渇いている気がする。扉の前で気持ちを落ち着けるようひとつ大きく息を吐くと扉をゆっくり開いた。
河村は足を組んでスマホを操作していた。いい意味で美術品のような人間離れした美しさに典型的なカラオケボックスの内装がチグハグで違和感を感じた。
『すみません、遅くなりました』
約束の時間より早かったがテンプレートのような社会人としての謝罪の弁を述べる。
「いや、これでも約束の時間より早いから謝るのはおかしいよ」
河村も同じようなテンプレートの返答をしてくれる。
『ところで、お話とはなんでしょうか?』
早速、本題へ。目を細めて眉根を下げて、口角を緩く上げてAは不自然なくらいに綺麗に笑顔を作って。心当たりがないとばかりに河村に質問した。
河村は顎に手を置き腕を組みながら、数秒沈黙を作り考えているように見える。そのあと河村は静かに静かに口を開く。
「僕は何も言わないから、心配しないで欲しい」
カラオケの誰も選曲してないときに流れる動画の音量に負けそうなくらい小さいが、真摯で凛としていてAを思いやる河村の声がAに向けられる。
その一言になんだか喉に引っかかる棘みたいにしっくり来なくて気持ち悪い。心の内に湧き上がってくる黒いもの。あの悪魔に対してとは同じような、だけど種類の違う怒りを河村に。
『なんですか、それ』
いつもなら自分の中で我慢出来るばずの言葉が口から零れていた。
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わらべ(プロフ) - 和奏さん» とても返信遅くなりましたがコメントありがとうございます!夢主のこと好きって言って貰えてこれ以上ないくらい幸せです!ひとくせある子が好きなので今回の夢主も気に入っていただけると嬉しいです!また読みに来てくださいませ! (2022年1月23日 20時) (レス) id: de37784df7 (このIDを非表示/違反報告)
和奏(プロフ) - わらべさんのお話はどれも夢主ちゃんのことが大好きになるので不思議です…更新のたび覆されてワクワクするし最高です〜!これからも応援してます。 (2021年12月31日 23時) (レス) @page44 id: ea0b227b7d (このIDを非表示/違反報告)
わらべ(プロフ) - すみれさん» コメントありがとうございます!好き嫌いが極端に出そうで中々進んで行かない作品ですが、本当に書きたいものを書きたいままやっていました!そこで1人でも好きと言っていただけたので本当に嬉しいです!更新は遅めですが頑張ります! (2021年10月11日 20時) (レス) id: 34cdc8231e (このIDを非表示/違反報告)
すみれ - めっちゃ好きです〜更新楽しみにしてます!! (2021年10月8日 17時) (レス) id: 84d3b4ed7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わらべ | 作成日時:2021年4月17日 12時