遠くに淡くみえる最期まで ページ9
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『ねえ壱馬くん？』
「ん？」
『私が一緒にしにたいって言ったら、壱馬くんはどうする？』
L字のソファーの端に座る壱馬くんの足の間に
体を預けるようにしてもたれて、
それぞれスマホを触ったり本を読んだりして
ゆったりした時間を過ごしていた。
そんな中でも時折頭や髪を撫でたり手を握ったり
彼は一緒にいる時間、やたらとくっつき虫になる。
今読んでいる本の内容に少しだけ心当たりがあるからか、
突拍子もなくそんな質問を投げかけてしまった。
上手に愛されたことがなかった2人は、
すごくすごく好きになったその相手と一緒に死にたくなってしまって。
それは決して悲観的なものではなくて、怖がりながら生きていくより、
美しく幸せな今のまま、この思いのままに死んでしまいたいと、
そう望んだ。
壱馬くんより前に出会って付き合ってきた人たちの殆どから、
一緒にしんであげる、と言われたことがある。
私は自らそう望んだ覚えはなかったのだけれど、
どういう訳かそう言われることが多かったように思う。
多くの女の子は一緒に生きていこうと望まれるはずなのに、
その子たちと私はなにが違うんだろう。
そう思えば思うほど、沈んでいくようだった。
「どうしたん急に」
『んー？ほら、めんへらとかって、言うでしょう？
例えばさっき私が言ったみたいなこと、本気で壱馬くんに言ったら。』
「メンヘラねえ」
体を起こした壱馬くんに後ろから抱き締められて、顔を覗き込まれる。
「俺、Aさんからそんなこと言われても、別にメンヘラとは思わへんと思うな。」
『怖くないの？』
「全然。全然、一緒に死ぬし。」
『え、』
「あは、なんでやねん自分から言うといて。」
あっけらかんと言ってのけた壱馬くんに拍子抜けしてしまった。
無論、確かに私が言い出したことではあったけれど。
だって、壱馬くんは違う。私とは違う。
守らなきゃいけないもの、居なきゃいけない場所がある。
壱馬くんを求めてる人が沢山いる。
壱馬くんは、生きて、ステージに立ち続けなければいけない。
何もない私とは違って、そんな風に簡単に投げ出したりなんか
絶対にしちゃダメなのに。しない人だと思っていたのに。
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作者名：たる | 作成日時：2022年3月3日 0時
